ESG研究所World Gold Council が「責任ある金鉱採掘原則（RGMP）」を発足
2019年10月23日
金業界のための市場開発組織であるWorld Gold Councilは9月12日、「責任ある金鉱採掘原則(RGMP: Responsible Gold Mining Principles）」を発足した。消費者、投資家、サプライチェーンの下流に対して、責任ある金鉱採掘の在り方を明確に示す、新たな枠組みである。同組織はバリック・ゴールドをはじめとする世界の大手金鉱山企業の参加メンバーと協力し、業界の主要なステークホルダーと連携した結果、金鉱採掘業界が抱える環境、社会およびガバナンス上の重要課題の解決に繋がる原則を定めた。
責任ある金鉱採掘の特定の要素に関する基準は既に複数存在し、それぞれの特徴に応じて適用されている。具体的には、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」、OECDの「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」や「多国籍企業行動指針」、「採取産業透明性イニシアチブ(EITI)」、国際金属・鉱業評議会（ICMM）の目標達成度評価などがある。しかし今回の原則が策定されるまで、責任ある金鉱採掘を明解に定めた、単一の枠組みは存在しなかった。
同原則は、ガバナンス・社会・環境の3部構成で、全10原則からなり、各原則には複数の小則が紐づいている（原則の一覧は末尾を参照）。
同原則は徹底的な協議と審査プロセスを経て策定され、外部とのコンサルテーションも2度実施された。200以上の機関や専門家がオンラインアンケートへの回答を寄せたほか、対面式の取材も行われ、複数のステークホルダーが参加するラウンドテーブルも5回開催された。ラウンドテーブルはいずれも第三者によって主催・運営された。これらのプロセスを経て、政府機関、国際機関、一般市民、サプライチェーン上の当事者、投資家を含む幅広いステークホルダーの見解が反映された。
責任ある金鉱採掘原則を実施するにあたり、企業は、原則の遵守を宣言するだけでなく、年に1度遵守状況について報告書を発表し、更に第三者認証機関から認証を取得する必要がある。監査は企業と採掘現場の両方で実施され、前者においては方針やアプローチ、後者においてはそれらの実践が評価される。本原則が信頼性のある枠組みとして認識され、金鉱山会社が責任ある方法で金採掘を行っていると誰もが確信を持てるよう取り組んでいきたいと、同組織はメンバー企業そして業界全体に期待を寄せている。
責任ある金鉱採掘原則（以下QUICK ESG研究所 仮訳）
| ガバナンス | 社会 | 環境 |
|---|---|---|
| 原則4：安全と健康 4.1 安全 4.2 安全管理システム 4.3 安全衛生、健康 4.4 地域社会の健康と危機管理 |
||
| 原則1：倫理規範 1.1 法律の遵守 1.2 行動規範 1.3 腐敗・贈収賄の防止 1.4 政治献金 1.5 透明性 1.6 税と移転価格 1.7 説明責任とレポーティング |
原則5：人権と紛争 5.1 国連ビジネスと人権の指導原則 5.2 人権侵害への加担 5.3 安全保障と人権 5.4 紛争 |
原則8：環境スチュワードシップ 8.1 環境への影響の管理 8.2 尾鉱と廃棄物の管理 8.3 シアン化物と有害物質 8.4 水銀 8.5 騒音と粉塵 |
| 原則2：インパクトの認識 2.1 リスクマネジメント 2.2 ステークホルダーエンゲージメント 2.3 デュー・デリジェンス 2.4 インパクト評価 2.5 苦情処理メカニズム |
原則6：労働者の権利 6.1 賃金と手当 6.2 差別といじめの防止 6.3 児童労働と強制労働 6.4 結社の自由と団体交渉権 6.5 ダイバーシティ 6.6 女性と採掘 6.7 通報制度 |
原則9：生物多様性、土地の利用、閉山 9.1 生物多様性 9.2 世界遺産地 9.3 土地の利用と森林破壊 9.4 閉山 |
| 原則3：サプライチェーン 3.1 サプライチェーン方針 3.2 現地調達 3.3 小規模採掘業者（ASM）の市場アクセス |
原則7：地域社会との協働 7.1 地域社会との対話 7.2 地域社会への理解 7.3 地域社会への正のインパクト 7.4 地域社会からの支援 7.5 開発に伴う移住 7.6 先住民 7.7 文化遺産 7.8 再定住 |
原則10：水、エネルギー、気候変動 10.1 効率的な水使用 10.2 水へのアクセスと水質 10.3 気候変動への取組み 10.4 効率的なエネルギー使用とレポーティング |
※本記事は、下記参照資料のWorld Gold Councilのプレスリリースおよび「責任ある金鉱採掘原則」の原文に基づき記載しています。
World Gold Council、責任ある金鉱採掘原則に関するお問い合わせは、World Gold Councilへ直接お願い致します。
参照
World Gold Council, Responsible Gold Mining Principles
QUICK ESG研究所 平井采花