ESG研究所【ESGブック】時価総額とインパクト加重会計の上位企業のサステナビリティ評価
2025年11月27日

今回は企業価値評価の手法として注目されるインパクト評価について考察する。インパクト評価には多様な手法が存在するが、会計学的視点からインパクト評価を研究するハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイン教授が提唱する「インパクト加重会計」を基盤とした評価方法を取り上げる。
セラフェイン教授が共同創業者を務めるリッチモンド・グローバル・サイエンシズ(Richmond Global Sciences:RGS)は、主要上場企業のインパクト加重会計による評価額を算出している。この評価は、企業活動による影響(インパクト)を「環境」「従業員」「顧客」の三つのステークホルダーに分けて測定する仕組みである。
本稿では日本企業を対象に通常の企業評価で用いる時価総額による上位10社と、インパクト加重会計によるトータルインパクト額の上位10社を比較し、それぞれのサステナビリティ・パフォーマンスを見ていく。なお、RGSのデータ使用については同社の許可を得ている。


両表を比較すると、時価総額の首位はトヨタ自動車なのに対し、トータルインパクトの首位は武田薬品工業である。武田薬品工業がトータルインパクトで首位となったのは、評価方法の特徴を反映した結果である。
インパクト評価の3つの側面のうち、「環境」はGHG(温室効果ガス)排出量、水使用量、廃棄物などで評価する。「従業員」は賃金、ダイバーシティ、機会均等を賃金データや男女比率で測定する。「顧客」は製品・サービスの必要性を価格弾力性から導き、国・地域の所得分布を考慮して算出する。
一般に、エネルギー関連や製造業は環境インパクトがネガティブになりやすい。従業員インパクトは賃金格差や登用状況の差が小さい企業ほどプラスとなる傾向がある。顧客インパクトは、必需品を提供し、富裕国市場だけでなく中低所得国にも製品・サービスを供給する企業ほど高くなる。医薬品は必要性が高いため、製薬企業の顧客インパクトは大きい。この観点から、金融や保険も必要性の高いサービスであり、複数の金融機関が上位10社に含まれている。
両ランキングに共通して入った企業は、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、ソニーグループの3社である。これらは株主・投資家から高評価を得ると同時に、ステークホルダーに対してもプラスのインパクトを創出している企業と考えられる。
両上位10社のサステナビリティ・パフォーマンスを見ると、ESGパフォーマンススコア・コアの平均値は、時価総額上位10社が61.77、トータルインパクト上位10社が58.42であり、時価総額上位企業の方が高い。SASB(サステナビリティ会計基準審議会)基準の5領域(ディメンション)スコアでは、時価総額上位企業は「リーダーシップとガバナンス」と「環境」で優位だが、「ビジネスモデルとイノベーション」「社会資本」「人的資本」ではトータルインパクト上位企業が上回った。
単純な比較で結論を導くことはできないが、トータルインパクトの大きい企業はイノベーションや人的資本、社会資本に関するステークホルダーを重視している可能性がある。今後もトータルインパクトの分析を継続したい。
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最後に、2025年8月27日(注1)から取り上げているESGブックの兄弟会社「アラベスクAI」による、JPX日経インデックス人的資本100(JPX日経HC100)の構成銘柄に対するAIシグナル分析のフォローアップを行う。
◎25年10月22日時点(注2)のAIシグナル(60%超)
株価上昇確率が60%以上の企業は以下の11社であった:
- 東北電力(80.85%)
- ダイセル(72.42%)
- 双日(68.61%)
- 関西電力(68.30%)
- 東京海上ホールディングス(67.82%)
- KDDI(67.42%)
- 日本製鐵(65.34%)
- 日産化学(64.01%)
- オリックス(62.00%)
- JFEホールディングス(61.86%)
- アサヒグループホールディングス(60.05%)
このうち、10月22日終値と11月25日終値(11月22日が土曜日だったため、翌営業日を使用)を比較して株価が上昇したのは、東北電力、双日、関西電力、KDDI、オリックス、JFEホールディングス、アサヒグループホールディングスの7社であり、前月に続きAIシグナルの精度は一定の成果を示したと評価できる。
◎25年11月21日時点のAIシグナル(50%未満)
今回は、株価上昇確率が50%に満たない銘柄で分析してみたい。対象企業は以下の13社である:
- 味の素(41.34%)
- ヤクルト本社(41.39%)
- ライオン(41.83%)
- 三井金属(45.45%)
- 花王(47.42%)
- ファーストリテイリング(48.06%)
- ニチレイ(48.90%)
- 川崎重工業(48.93%)
- ユニ・チャーム(49.38%)
- 伊藤忠商事(49.38%)
- ディスコ(49.73%)
- パソナグループ(49.94%)
- レゾナック・ホールディングス(49.95%)
次回の寄稿でも、引き続きこれらの企業の株価推移とAIシグナルの精度について報告する予定である。
(注1)25年8月27日の記事
【ESGブック】リバランス後の人的資本スコア分析 株価指数「JPX日経HC100」
(注2)25年10月29日の記事
【ESGブック】株価指数「JPX日経HC100」の人的資本スコアに見る短期的変化
(参考)25年9月25日の記事
【ESGブック】人的資本スコアの国際比較と日本企業の特徴
ESGブック(アラベスクS-Ray 社)日本支店代表 雨宮寛