ESG研究所【ESGブック】リバランス後の人的資本スコア分析 株価指数「JPX日経HC100」
2025年08月27日
2025年8月22日に構成銘柄の定期入れ替え(リバランス)が発表された株価指数「JPX日経インデックス人的資本100」(以下、JPX日経HC100)について、リバランス後の構成銘柄100社のサステナビリティ・パフォーマンス、特に人的資本スコアの推移を中心に分析する。ESGブックのスコア対象全企業(グローバル:約9,000社)および対象全日本企業(約1,000社)との比較から、構成銘柄の特長が浮かび上がった。
8月29日に実施されるリバランスでは、構成銘柄100社のうち31社が入れ替わる。新たに加わる企業は、過去1年間において人的資本スコアが好調に推移し、日本企業の中でも高水準に位置していると考えられる。
表1はリバランス後のJPX日経HC100構成銘柄の主要スコアを示している。前年のリバランス基準日と今年のリバランス基準日の全銘柄の平均を比べた。人的資本スコアは、トータルスコアである「ESGパフォーマンススコア」を構成する5領域(ディメンション)のスコアの1つであり、3つのカテゴリースコアから成る。その3つは、「労働慣行」「従業員エンゲージメント、多様性と包摂」「従業員の健康と安全」だ。スコアは企業の開示情報に基づく「コア」を採用している。
表1から、この1年で各スコアが上昇したことが読み取れる。具体的に見ていこう。
- ESGパフォーマンススコア・コア:60.54 → 63.95(+3.41)
- 人的資本スコア:66.62 → 70.39(+3.77)
- 労働慣行:73.03 → 74.33(+1.30)
- 従業員エンゲージメント、多様性と包摂:42.12 → 43.90(+1.78)
- 従業員の健康と安全:66.39 → 71.14(+4.75)
人的資本を構成する全カテゴリーのスコアが上昇しており、JPX日経HC100構成銘柄の人的資本への取り組みが強化されていることが示唆される。ただし、「従業員エンゲージメント、多様性と包摂」のスコアが依然として50を下回っている点は課題である。一般に企業が多様性や包摂への取り組みに消極的になる傾向も見られるが、JPX日経HC100構成銘柄には引き続き積極的な対応が求められる。
表2はグローバルのスコア対象全企業の平均を表1のスコア採用日に合わせて集計したものだ。
表1と比較すると以下の点が読み取れる。
- 今年のJPX日経HC100の「人的資本スコア」は、グローバル平均を20ポイント近く上回っている。
- 今年の「労働慣行」および「従業員の健康と安全」のスコアは、グローバル平均を20ポイント以上上回っている。
- 一方で、「従業員エンゲージメント、多様性と包摂」のスコアは、前年も今年もグローバル平均を下回っている。
表3は、スコア対象全日本企業の平均だ。
表1と比較すると以下の点がわかる。
- JPX日経HC100のすべてのスコアは、日本企業全体の平均を大きく上回っている。
- 特に「人的資本スコア」では、20ポイント以上の差が見られる。
リバランス後のJPX日経HC100構成銘柄は、過去1年間においてサステナビリティ・パフォーマンスが上昇しており、グローバルおよび国内との比較においても総じて高水準を維持している。今後は、「従業員エンゲージメント、多様性と包摂」のさらなる向上が期待される。人的資本に注力する企業群として、JPX日経HC100の動向を今後も注視していきたい。
最後に、ESGブックの兄弟会社であるアラベスクAIによる、JPX日経HC100構成銘柄に対する実験的なAIシグナル分析を紹介する。本分析では、JPX日経HC100を構成する100社を対象に、評価日(2025年8月22日)時点でのAIシグナルを算出した。このAIシグナルは、評価日から約1カ月後に株価が上昇する確率を示すものであり、数値が100%に近いほど、株価上昇の可能性が高いことを意味する。
当該評価日におけるJPX日経HC100全体の平均シグナルは34.44%であり、AIの予測によれば、株価上昇の見込みは高くないと判断される。なお、100社のうちAIシグナルが50%を超えていた企業は以下の3社のみである。
- 商船三井:52.22%
- KDDI:50.51%
- 日本郵船:50.19%
今後1カ月間の株式市場の動向を注視し、AIシグナルの予測精度についても検証を進めていく。また、企業の長期的な価値創造に資するサステナビリティ分析に加え、AIによる短期的な企業価値の予測を補完的に活用することで、より多角的な企業評価が可能になると考えられる。今後も機会があれば、両者の連携による分析を継続的に行っていきたい。
ESGブック(アラベスクS-Ray 社)日本支店代表 雨宮寛