ESG研究所【ESGブック】バフェット氏銘柄5大商社のサステナビリティ・パフォーマンス
2025年02月27日
米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイが「日本の5大商社の株式5%強取得」と発表した2020年8月末から約4年半。今週2月24日付の日本経済新聞朝刊に「バフェット氏株主への手紙 日本の商社株買い増し意欲」という記事が掲載された。本寄稿では、記事に記載されている5大商社について、2月23日時点のESGブックのESGパフォーマンス・スコアおよびリスク・スコアによってサステナビリティ・パフォーマンスを比較してみたい。
まず、サステナビリティのパフォーマンスをESGパフォーマンス・スコア・プラス(EPSP)で見てみよう。このスコアは、企業のサステナビリティに関する開示情報を、SASB(サステナビリティ基準審議会)スタンダードをベースに評価し、さらに、AI(人工知能)を活用して日々のサステナビリティ関連ニュースを企業ごとに認識し、そのニュースのインパクトを評価するスコアである。
表1は、バフェット氏が買い増しに意欲を示しているとされる5社のスコアである。EPSPのトータルスコアでは、5社いずれも日本企業の平均スコア(50.03)及び世界の平均(51.33)を上回る評価となっている。特に、三井物産(82.39)と伊藤忠商事(75.69)は世界的に見ても高い評価を得ていると考えられる。
EPSPはサブスコアとしてSASBスタンダードの5つのディメンション(領域)をスコアリングしている。両社及び丸紅(EPSP=67.67)は、5つのディメンション・スコア・プラスが全て日本企業の平均、世界平均を上回っている。この3社のサステナビリティのパフォーマンスは、非常に優れていると考えられる。
5社の中では下位に位置している住友商事(EPSP=62.07)と三菱商事(EPSP=56.43)も日本企業の平均及び世界平均を上回っているが、それぞれ社会資本のディメンション・スコア・プラスが、住友商事が47.45、三菱商事は40.49と、日本企業の平均である51.00と世界平均の51.32を下回っている。
SASBスタンダードにおける社会資本ディメンションは「顧客の福祉」、「データセキュリティ」、「製品の質と安全性」、「販売慣行と製品のラベリング」、「アクセスとアフォーダビリティ(手頃な価格)」、「顧客のプライバシー」、「人権と地域社会との関係」の7カテゴリーから構成されている。三菱商事は「データセキュリティ」と「顧客の福祉」、住友商事は「顧客の福祉」「顧客のプライバシー」が低い評価となっており、スコアの押し下げ要因となっている。これらのカテゴリーの改善が求められる。
次に、リスク・スコア・プラス(ERSP)によって比較してみたい。このスコアは、企業のサステナビリティに関する開示情報を国連グローバルコンパクトの10原則をベースに評価し、さらに、AIを活用し日々の企業のニュースをそれぞれの原則に対応して評価するスコアである。
表2から、EPSP同様に、伊藤忠商事と三井物産が、それぞれ77.58、72.03という高い評価となった。国連グローバルコンパクトの10原則の中核となる人権、労働、環境、腐敗防止の4つのピラー・スコア・プラスも両社は、日本企業平均、世界平均のいずれも上回る評価となった。
5社のERSPは日本企業平均(46.33)、世界平均(50.02)を上回るスコアであるが、ピラー・スコア・プラスの段階で見ると、いくつかの改善すべき点が見られる。三菱商事(ERSP=62.90)は、腐敗防止のスコアが41.69と、日本企業の平均である34.79を上回っているが、世界平均の50.58を下回っている。同様に住友商事(ERSP=60.36)も腐敗スコアが42.83と、日本企業の平均を上回っているが、世界平均を下回っている。
腐敗防止は日本企業の平均スコアが世界の平均スコアを約15ポイント下回っているので、日本企業全体の改善すべき課題ではあるが、上位3社の腐敗防止スコアは50を上回っているので、下位2社の改善の余地はあると考える。腐敗防止スコアは各企業の開示情報を40の評価指標で調査している。内部通報制度、取締役会や各委員会の独立性や透明性、マネーロンダリング対策、インサイダー取引対策、贈収賄・汚職監視体制、政治的関与、納税や訴訟等、企業経営の守りの部分を広く網羅している。
これらのスコアは世界の企業(約9000社)との相対評価であるため、短期的にスコアを伸ばすことは容易ではない。しかし、それぞれのスコアで50を上回ることを目安に改善を行なって頂きたい。
参考までに、バフェット氏の会社であるバークシャー・ハザウェイのサステナビリティのパフォーマンスを各表の最後の行に掲載している。同社はサステナビリティの開示に積極的ではないため、各スコアは低い水準となっている。しかし、ERSPの腐敗防止スコアは56.16と世界平均を上回っているところは評価できる。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)