ESG研究所SBTiがIPCCの1.5℃特別報告書を受け、承認基準を大幅改定

Science Based Targetsイニシアチブ(SBTi)が、2019年10月以降、企業による温室効果ガス排出量の削減目標をパリ協定が定める意欲的な目標(今世紀末までに世界平均気温の上昇を産業革命以前に比べ1.5℃未満に抑制)に整合させるため、承認基準を大幅に改定することを公表した。

SBTiの承認基準は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年10月に発表した「1.5℃特別報告書」における最新の科学的知見を反映したものになる予定である。この1.5℃特別報告書は、地球温暖化を2℃以上ではなく、1.5℃に抑えることによって、多くの気候変動の影響が回避できることを強調し、気温上昇をパリ協定で設定した目標以下に抑えるための新たな排出シナリオを複数提示している。

今回の改定により、承認基準は次のようになる。

  • 提出された新規目標のうち、承認するのは気温上昇幅を産業革命前と比べて「2℃を大幅に下回る水準または1.5℃未満に設定したもの」に限定する。気温上昇を2℃未満に抑えるとする従来の目標が承認されることはない。「2℃を大幅に下回る水準」の定義は、IPCCの特別報告書と基本的シナリオで明らかになる
  • 既に承認取得済みの目標と新たに提出された目標の意欲的なレベルは、気温上昇幅によって①1.5℃未満 ②2℃を大幅に下回る ③2℃未満、の3つのカテゴリーに分類し、SBTiのウェブサイト上で公開する
  • 各企業には、最新の科学的知見に整合する目標を維持するため、最初に承認を取得してから5年ごとに目標を見直し、必要であれば再審査を受けることを求める。2025年にはこれが義務化する。つまり、2019年10月以前に「気温上昇を2℃未満に抑える」とする目標で承認を得た企業も、2025年には目標を見直し、「2℃を大幅に下回る水準」で再審査を受けることになる

SBTiは、新たな目標審査基準などを2019年4月に公表する予定である。同時に、気温上昇が2℃を大きく下回るレベルに抑えるという目標を企業が設定する際に根拠となる新たな資料も公表する。

世界自然保険基金(WWF)で科学的根拠に基づく目標設定を主導し、SBTiのパートナーでもあるアレキサンダー・ファーサン(Alexander Farsan)氏は、「IPCCの特別報告書は世界経済に警鐘を鳴らすものだ。パリ協定の目標を達成し、破壊的な地球温暖化を阻止するためには、意欲的な目標をもう一段引き上げることが急務である。この目標を達成する上で企業は重要な役割を担っている。IPCCが公表した最新の科学的知見は今後の道筋を示すものである。各企業には目標のレベルを引き上げ、誰もが必要と認める変化を率先して推進するよう求める」と述べている。

SBTiはCDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)とWWFによる共同イニシアチブで、企業に対し科学的知見と整合した削減目標を推進、独自の承認基準に基づき設定目標を評価している。2015年の設立以降、SBTiに参加する企業数はグローバルで534社、削減目標が承認された企業の数は176社に上る(2019年2月末時点)。承認された企業のうち、37社は日本の企業である。

 

関連サイト

  1. Science Based Targets initiative「Science Based Targets initiative announces major updates following IPCC Special Report on 1.5°C」2019年2月20日(2019年3月7日情報取得)

QUICK ESG研究所 小松 奈緒美