ESG研究所【ESG投資実態調査2021】(4)《解説》投資コスト、対話の実効性など課題
2022年01月21日
QUICKリサーチ本部ESG研究所は2022年1月20日、日本に拠点を置く投資家のESG(環境・社会・企業統治)投資の実態を明らかにするために実施した「ESG投資実態調査2021」を公表した。集計結果から浮かび上がったESG投資の傾向や課題を解説する。
《解説》
ESG投資の増加傾向は変わらない
今回の調査で、日本株の運用残高全体に占めるESG投資の割合の増加傾向が続きそうなことがわかった。5年後のESG投資残高について41社中、9社が増やすと回答した。ESG投資を増やす要因で最多の回答は「経営トップによるコミットメント」だった。責任投資やESGリサーチ、エンゲージメント(対話)などの専門部門・部署を設けている会社が有効回答社数の63%と前回調査から10ポイント増加した。経営陣が号令をかけ、組織を整えており、ESG投資の増加傾向は変わらないだろう。
投資手法別で今回も最多だった「ESGインテグレーション(ESG要因を投資分析および投資決定に体系的かつ明示的に組み込んだ投資)」は「サプライチェーンの対応状況も含めたES課題に関するビジネスモデルのレジリエンス(強靭性)」など個別企業の定性評価を中心に組み入れるという回答が多かった。セクターアロケーションやアセットアロケーション段階での組み入れは少数にとどまっており、これらの段階での組み入れが課題になる可能性がある。
E・S・G各課題につながり、対話のテーマは多様化
ESG投資手法で2位に入った「エンゲージメント」のテーマでは、「気候変動」が前回調査同様に1位になった。2位は「人権」と、今回選択肢に加えた「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性尊重)」だった。多様な属性や価値観をもった人材の活用が求められているといえる。急浮上したのは「生物多様性」で、回答社数は前回の3社から今回14社になった。また、絶対数が少ないとはいえ、「森林」、「腐敗防止」、「持続可能な漁業」は、前回に比べ倍増した。
環境課題では気候変動、生物多様性などと分類しているが、例えば、森林保全は、二酸化炭素の吸収といった気候変動だけでなく生物多様性にもつながるテーマだ。森林を切り開いて、太陽光発電施設を建設するようなケースもあり、施設の建設や操業のやり方を間違えると、従業員、地域住民の生存や人権を脅かしかねない。また、気候変動への対応策として期待される電気自動車は、バッテリーの原料であるコバルトなどの調達において腐敗リスクに注視する必要があるとの指摘がある。ESGのテーマは相互に関連し、環境課題が社会や企業統治の課題につながる可能性もあるだけに、企業も投資家も様々な分野への目配りが欠かせなくなっている。
ESG投資コスト負担や対話の実効性など課題
今回の調査で浮かび上がってきたESG投資の課題の1つは、運用コストをだれがどう負担していくかという問題だろう。ESGの専門部署を置く機関投資家が増えているうえ、「ESGスコア・レーティングを使用している」との回答は70%と、前回調査から7ポイント増えた。財務分析に加え、多岐にわたる非財務情報を評価していくには、一定の負担が伴うとみられる。
運用委託者(アセットオーナー)から「企業との対話状況」や「対話の効果」について報告を求められている運用会社(アセットマネジャー)が多く、過半はアセットオーナーに「ESG考慮によるフィー向上」を要望している。このほかの要望事項として「ポリシーメーカーへの提言」や「アセットオーナーによるエンゲージメント実施」との回答もあり、アセットオーナー自身が関与する姿勢も期待されているようだ。それだけ対話の実効性向上が課題になっているように見受けられる。=おわり
《調査の概要》
- 名称:QUICK ESG投資実態調査2021
- 対象:「『責任ある投資家』の諸原則~日本版スチュワードシップ・コード~」の受け入れ表明機関の中から抽出した日本国内に拠点を置く機関投資家157社
- 回答社数:53社(うちアセットオーナー5社、アセットマネジャー48社)
- 期間:2021年8月23日~10月19日
ESG投資実態調査2021(要約版)はこちら
QUICK ESG研究所