ESG研究所QUICK ESG研究所・Arabesque S-Ray社共催セミナーを開催:ESG評価の新潮流

arabesque s-ray

7月29日(月)と30日(火)、QUICK ESG研究所はESGリサーチ会社Arabesque S-Ray社(以下アラベスク)と共催セミナーを開催した。

アラベスクは、ドイツ・フランクフルトを拠点とするESG評価会社。78カ国の上場企業約7,250社(うち日本企業は約570社)について、企業の公開情報と世界170カ国の3万以上の情報元からESG評価の元となる200項目を超えるデータを自動収集し、AI(人工知能)による独自のスコアリング・メソドロジーで、ESGスコアとあわせ、世界で初めて、国連グローバルコンパクトに基づくスコア(GCスコア)を算出している。独自のメソドロジーに加え、株価へのインパクトを考慮し企業のESG要素を日次ベースで反映している点でも画期的と言える。QUICKは2019年6月にアラベスクとパートナーシップ契約を締結し、アラベスクが日次で算出するESGスコア、GCスコアおよびこれらの詳細データを、機関投資家、銀行、保険、証券会社などの金融機関、事業法人向けに提供する。

セミナーでは同社CEOのアンドレアス・フェイナー(Andreas Feiner)氏と、同社日本支店代表の雨宮寛氏を迎え、同社のミッションやスコアリングのメソドロジー、海外企業および投資家の活用事例について講演した。2日間に渡り、企業100名、機関投資家52名が参加した。

アラベスクの出発点は、ESG評価会社の評価軸間に相関性が存在しない状況では、企業の実態を正しく評価できないという課題にある。そこで、誰が見ても分かりやすく、透明性の高い評価メソドロジーを構築し多くの投資家に利用してもらうために、2017年に母体であるArabesque Asset Managementから独立し、別会社として誕生した。

講演の中でフェイナー氏は、アラベスクのミッションとして、「企業のESG評価の透明性の向上とAIをはじめとする最新のテクノロジーを通じたサステナビリティのメインストリーム化」と「個々人の選好にあったファイナンス提供を実現し、人々のライフスタイルの一部にしていくこと」を挙げた。これらのミッションを体現するために、国連グローバルコンパクトの創設者であるゲオ・ケル(Georg Kell)氏や国連ビジネスと人権の指導原則を策定したジョン・ラギー(John Ruggie)教授など多才なボードメンバーを迎え、独自の評価メソドロジーを日々ブラッシュアップしている。

また、ESGスコアとGCスコアに加え、2019年9月以降には企業の気候変動への対応を評価するTemperatureスコアを発表する予定であり、今後もサービスを拡充していく予定だ。

セミナーの様子写真

企業向けセミナーの後半では、QUICK ESG研究所リサーチヘッドの中塚一徳が世界経済フォーラム(World Economic Forum: WEF)が2019年1月に発行したホワイトペーパー”Seeking Return on ESG: Advancing the Reporting Ecosystem to Unlock Impact for Business and Society“に触れ、ESG投資に関わるステークホルダーの間で、ESG評価項目を標準化する必要性が認識され始めていることに言及し、アラベスクの取り組みが世界のトレンドに合致していることを説明した。

アラベスクをめぐる最新の動向としては、ドイツのヘッセン州と同国内大手金融機関3社が7月に同社に対して2,000万ドル(1,780万ユーロ)を出資することを決定した。資本提携に参加するのは保険大手アリアンツ傘下の投資運用会社Allianz X、コメルツバンクグループの子会社Commerz Real、旧ドイチェ・アセット・マネジメントのDWSの3社で、うちDWSは出資比率が2.86%となった。ドイツ金融の中心であるフランクフルトを擁するヘッセン州は、ここ数年サステナビリティの取り組みを推進しており、今年5月にはドイツの州で初めて国連責任投資原則(PRI)に署名した。同州はサステナビリティ向上に取り組むイニシアチブ「Green and Sustainable Finance Cluster」も主導し、同国内金融機関に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を導入するよう働きかけている。DWSもアラベスクとの提携関係をさらに深める計画を明らかにし、後者のAIエンジンに少数株主として出資する可能性についても独占的協議を行うとしている。DWSは自社の「ESGエンジン」のデータソースにS-Rayを加える方針だ。

総額35兆円(2,870億ユーロ)の運用資産を有する第一生命は、S-Rayのデータを使って運用する外国株式ESGファンドを立ち上げた。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2018年5月に自らのESG評価指標のデータプロバイダーにアラベスクを指名した。アラベスクは2017年11月のRIの取材に対し、米巨大金融グループのステート・ストリートと「提携関係」を結び、ESGソリューション事業の一環としてS-Rayを提供すると述べた。スウェーデンの公的年金基金AP1も、2018年10月にS-Rayのデータを使用すると発表した。ヘッセン州のタレク・アルヴァジール経済・運輸・地域開発大臣は、「気候変動とその劇的な影響を阻止するためには巨額の投資が必要だが、それは民間資本なしには達成できない。投資家は投資対象の商品が本当に持続可能なのか、あるいは単なる『グリーンウォッシング』にすぎないのか、見極める必要がある」と指摘し、「従って、民間投資を呼び込むためには、投資判断のための透明性の高い評価基準やツールが不可欠となる。これはヘッセン州のグリーンファイナンスクラスター政策(Green Finance Clusters Frankfurt e.V.)が掲げる目標の1つでもある」と述べた。フェイナー氏は、「サステナビリティは、数兆ドルに上る資産を運用する投資家の行動だけでなく世界の主要企業の将来をも左右しつつある。今回のDWSによるアラベスクへの出資を大いに歓迎し、同社と連携して市場におけるESGデータテクノロジーの普及をリードしていきたい」とコメントしている。

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