ESG研究所KnowTheChain、ICT企業のサプライチェーンにおける強制労働への対応を評価: グローバル、アジアでも後れを取る日本企業
2020年06月11日
サプライチェーンの強制労働の問題に特化した団体KnowTheChainは6月9日、3回目となるICT部門ベンチマーク「2020 Information and Communications Technology Benchmark」を発表した。
グローバルな電機・電子企業49社(欧州8社、北米23社、アジア18社)を対象としたこのベンチマークは、各社のサプライチェーンにおける強制労働リスクへの対応状況を、国連ビジネスと人権に関する指導原則に基づき評価している。具体的には、「1. コミットメントとガバナンス」「2. トレーサビリティとリスクアセスメント」「3. 調達行動」「4. 採用活動」「5. 労働者の声」「6. モニタリング」「7. 救済措置」の軸で評価を行う。企業の人権の取り組みを総合的に評価するCorporate Human Rights Benchmark(CHRB)とも互換性がある。
強制労働を防ぐ具体的な取り組みは未だに不十分
評価でトップに立ったのはヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)で100点満点中70点だった。次いで、HPとサムスン電子がそれぞれ69点、インテルとアップルがそれぞれ68点で続いた。もっとも、上位5社のうち、HPE、HP、インテル、アップルはいずれも2018年の前回調査からスコアを落とした。49社全体の平均スコアは30点にとどまった。
KnowTheChainによれば、強制労働をなくすために最も重要な項目である「4. 採用活動」や「5. 労働者の声」のテーマにおける対応が全体を通じて遅れているという。例えば、労働者の団結権や団体交渉権といった「権利の保障」について、49社すべてのスコアが0点だった。また、全体の73%にあたる36社は、労働者が採用時の斡旋料を払うことを禁止するサプライチェーン方針を掲げているものの、そのような支払いを根本的に防ぐためのプロセスを導入していないと指摘する。
出典:KnowTheChain
グローバル、アジア地域でも後れを取る日本企業
今回評価対象となった日本企業10社の平均点は18点と全体平均を大きく下回り、台湾、韓国企業の平均をも下回った。最も評価が高かったのはソニー(36点)で、グローバルな平均点を上回った唯一の日本企業だった。特に人権リスク評価の指標、是正のための行動計画、採用活動に関する情報開示を業界他社より積極的に行っているという。
一方、その他9社のスコアは、日立製作所(27点)、任天堂(23点)、村田製作所(18点)、東京エレクトロン(16点)、キヤノン(14点)、パナソニック(13点)、HOYA(13点)、京セラ(10点)、キーエンス(6点)という結果になった。
日本企業は総じて方針や体制に関する評価が高かったものの、具体的な取り組みに関する評価が低いことから、方針と実践に乖離が見られるという。例えば、10社中7社が、サプライヤーも利用可能な苦情処理メカニズムを導入しているものの、サプライヤーが実際に使用したという証拠を開示している企業はいなかった。つまり、労働者が実際に苦情処理メカニズムについて認識し、信用し、それを使用できているという証拠に欠けていることになる。
出典:KnowTheChain
新型コロナウイルス危機で高まる労働者の人権リスク
新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、特に末端レベルのサプライチェーンにおける労働者は脆弱な立場に置かれている。安全衛生が不十分な職場環境で働かざるを得ず、感染リスクが高まる、または職場の休業等により収入が断たれ、搾取されるリスクの高い労働に従事しかねないという負のサイクルも生まれる。移民労働者や非正規労働者などコロナ危機以前より弱い立場にある労働者においてこうした傾向は顕著である。
KnowTheChainのプロジェクトリーダーを務めるフェリシタス・ウェーバー(Felicitas Weber)氏は、「スコアの低さは、この業界が新型コロナウイルスのようなショックに弱いこと」を示しており、新型コロナウイルス危機の復興を考えるにあたり、企業と投資家は「ビジネスの大崩壊と労働者の困窮をもたらすサプライチェーンの潜在的な労働者の権利の問題に対処しなくてはならない」と話す。
KnowTheChainは人権や平和構築に携わる民間財団のHumanity United、ビジネスと人権リソースセンター、ESG評価会社Sustainalytics、労働分野の国際NGOのVeriteのパートナーシップにより活動している。KnowTheChainベンチマークは、ICT部門のほか、食品・飲料部門、アパレル・フットウェア部門で評価を実施している。
参照
2020 Information and Communications Technology Benchmark
関連記事
- 「ビジネスと人権に関する国際的なイニシアチブであるCHRBが2019年版ベンチマークを公表 日本企業18社を含む200社を評価」(2019年12月2日)
- 「水口教授のヨーロッパ通信】現代奴隷法 - サプライチェーンの人権リスク -」(2015年11月11日)
QUICK ESG研究所 アナリスト 平井采花