ESG研究所ESG投資家、プラスチック削減を要求
条約の政府間交渉に向け声明
2024年03月25日
ESG投資を推進する機関投資家の環境課題への取り組みは気候変動だけでなく、生物多様性や自然資本に広がりを見せている。昨年から目立つのは、海洋汚染源として生態系に及ぼす影響が懸念されるプラスチックの削減に向けた動きだ。
国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)や国連責任投資原則(PRI)などは2月下旬、金融機関や機関投資家に対し、プラスチック汚染撲滅に向けた声明への署名を呼び掛けた。カナダのオタワで4月下旬に開催されるプラスチック汚染に関する法的拘束のある国際文書(条約)策定に向けた第4回政府間交渉委員会(INC)で交渉国宛てに公開する予定で、4月10日までの署名を呼び掛けている。
この声明はUNEP FIとPRIが、生物多様性のためのファイナンス財団、国際プラスチック条約企業連合、オランダの持続可能な開発のための投資家協会(VBDO)、英環境NPO(非営利団体)のCDPと共に起草した。
声明は「この数十年の使い捨てプラスチックの生産と消費の結果として生じたプラスチック廃棄物と汚染の増加は、気候変動、生物多様性、人権、公衆衛生に対する重大かつ増大する脅威であり、システムレベルのリスクを悪化させる」と主張。そのうえで、INCの各国政府交渉団に対して「プラスチック汚染をなくすという明確な目標を定めた野心的な条約への合意」を求めている。
INCは、2022年3月の第5回国連環境総会再開セッションで「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」という決議が採択され、設置が決まった。22年11月から2024年末までに条約策定作業を完了することを目指している。
昨年11月の第3回INC開催に合わせ、CDPはプラスチックに関する企業情報の包括的な開⽰の必要性について、各国政府宛ての公開書簡を公開した。CDPの発表文によると、この公開書簡に当時、48の金融機関(その後、49金融機関)が支持を表明した。その運用資産合計額は3兆5000億米ドルを上回る。
それに先立つ昨年5月にはオランダのVBDOが調整役になり、合計の運用資産額は10兆米ドルにのぼる185の投資家がプラスチック包装を大量に使用する日用品や食料品、小売業の企業に対し緊急の行動を求める共同声明を公表した。賛同する投資家に日本から、りそなアセットマネジメントが名を連ねた。昨年10月には日興アセットマネジメントも賛同し、署名した投資家は189になった。
米国では21年に化学大手デュポン・ド・ヌムール、22年には食品大手ゼネラル・ミルズ、米食品流通大手のシスコ・コーポレーションの株主総会でプラスチック汚染や包装の削減に向けた取り組みに関する報告を求める株主提案が過半の賛成票を集めた。提案を主導したのは、デュポンがNPOのアズ・ユー・ソウで、ゼネラル・ミルズとシスコ・コーポレーションはESG投資家のグリーンセンチュリーだ。
投資家の目が向かうのは、化学メーカーや日用品、食料品、エネルギーなどのセクターだが、CDPは24年の質問書で気候変動、水セキュリティ、森林の3分野を統合し、中小企業と公的機関を除くすべての回答対象企業にプラスチックに関する基本的な情報の開示を求める見通しだ。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が23年9月に公表した最終提言には、自然関連の依存と影響に関するグローバル中核開示指標の1つに「プラスチック汚染」が入った。
TNFDが開示を推奨するプラスチック汚染の測定指標は「使用または販売されたプラスチック(ポリマー、耐久財、包装材)の総重量を原材料含有量に分けて測定した総フットプリント」「プラスチック包装材の場合、『再利用可能』『堆肥化可能』『技術的にはリサイクル可能』『実務的にも規模的にもリサイクル可能』に該当する割合」となっている。
TNFD提言に基づく開示は任意だが、すでに80社以上の日本企業が早期開示を表明している。脱炭素に関する気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言のように今後、企業統治指針である「コーポレートガバナンス・コード」などでTNFD開示が規定される可能性もある。プラスチック削減条約策定の動向もにらみ、企業は積極的な対応が望まれそうだ。
(QUICK ESG研究所 遠藤大義)
参考
3月24日付の日経ヴェリタスでは、QUICK ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資最前線」で、「プラスチック情報開示」が取り上げられました。本稿はその関連記事です。