ESG研究所ESG投資残高減少の背景は? 内外で定義厳格化

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(注)2024年1月発行の「QUICK ESG投資実態調査2022(第2版)」に合わせて更新しました。

 

「QUICK ESG投資実態調査2022(第2版)」によると、日本株のESG投資残高は約81兆7000億円と2021年調査に比べ約9兆9000億円減った。日本株の運用資産全体に占めるESG投資の割合は62%から59%に低下した。一見、ESG投資が縮小したようだが、どう解釈したらよいのだろうか。

日本株運用残高とESG投資残高

有効回答数は41と2021年調査の36から増えたのに、日本株のESG投資の残高が減少し、割合も低下した。主因は、2021年調査に回答したものの、2022年調査を見合わせた会社の運用規模が大きいことだった。「ESG投資の定義を社内で厳格化している影響」で、大手機関投資家が回答を控えた。

日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)の「サステナブル投資残高アンケート調査」でも同様の傾向が見られる。「サステナブル投資残高」は、QUICK調査の「ESG投資残高」と同義である。22年3月末のサステナブル投資残高は493兆5977億円と21年に比べ4%減少した。日本株に限ると、119兆8873億円と同10%減った。21年調査に参加した機関のうち7機関が回答を見合わせたのが原因の1つで、その理由は社内での「定義見直し」だという。

米国のサステナブル&責任投資フォーラム(US・SIF)の調査結果は理由が明確だ。2022年12月13日に公表した、隔年の「トレンド報告書」で米国のサステナブル投資残高は22年初時点で8兆4000億ドルと、前回2020年の17兆1000億ドルから半分以下になった。理由の1つは、集計方法の見直しだ。

2022年のトレンド報告書(サマリー版)には「全社的にESGインテグレーションを実践していると表明しているものの、投資決定やポートフォリオ構築で使用した特定のESG基準(生物多様性、人権、タバコなど)に関する情報を提供しなかった投資家の運用資産は含まれていない」と記載してある。ESGインテグレーションとは、ESG要因を投資の分析や決定に体系的かつ明確に組み込んだ投資手法を指す。その定義を厳格に変えたわけだ。

また、US・SIFはそのプレスリリースで「複数の機関が2020年の回答と比べ、ESG資産の緩やかな減少から急激な減少を報告した。これは米証券取引委員会(SEC)によるESGファンド開示に関する提案への反応だ」という理由も挙げている。米SECは2022年5月、「誤解を招く、あるいは、欺瞞的なファンド名を防止するための規則変更」を提案した。ESG重視と見せかける「ESGウオッシュ」に対する規制を踏まえて、従来の回答を自主的に見直す動きが出たようだ。

隔年で公表される「グローバル・サステナブル投資白書(GSIR)2020」(日本サステナブル投資フォーラムによる日本語訳)によると、2020年の世界のサステナビリティ投資資産は35兆3010億ドルで、米国が半分近くを占めていた。同白書では世界のサステナビリティ投資資産は増加したものの、欧州は2018年に比べて減少した。EUの法律でサステナブル投資の定義が大幅に変更されたのが原因だった。

2022年は米国のSIFといった調査機関と機関投資家の双方による「定義の厳格化」の動きがみられ、次回の「GSIR2022」では米国のサステナビリティ投資残高の半減が反映されるとみられる。しかし、これをもって直ちにESG投資が失速したとは言えないのではないか。実体を伴わないのにあいまいな解釈のもとで「ESG投資」をアピールしていた部分がはげ落ちたととらえるべきなのだろう。

欧州では2021年3月、金融機関にESG情報の開示を義務付ける「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」の運用が始まった。日本でも金融庁が22年12月、ESG投信に関する「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正案を公表。ESG投信の範囲を定めるとともに、情報開示や態勢整備について、具体的な検証項目を定める方針を示した。

QUICKの2022年調査の投資手法に関する設問で「ESGインテグレーション」は有効回答の81%を占め3位だった。同手法は「エンゲージメント」(87%、首位)、「議決権行使」(85%、2位)と並んで引き続き広く使われているが、2021調査の87%(首位)から下がった。海外の動向の影響がなかったとも言い切れない。2020年代前半は「真のESG投資」に向けた助走期間なのかもしれない。

(QUICKエンタープライズサービス開発本部プリンシパル ESG研究所エディター 遠藤大義)

 

【参考】
1月29日付の日経ヴェリタスの「サステナブル投資最前線」で「QUICK ESG投資実態調査2022」が取り上げられました。本稿はその関連記事です。

「QUICK ESG投資実態調査2022」の概要
調査対象:「日本版スチュワードシップ・コード」の受け入れ表明機関もしくは責任投資原則(PRI)署名機関の中から抽出した、日本国内に拠点を置く170の機関投資家
回答組織数:61(うちアセットオーナー13、アセットマネジャー48)
調査期間:2022年8月22日~10月4日
ESG投資実態調査2022(要約版)はこちら