ESG研究所CDPが企業による水課題への取り組み傾向を分析したレポートを公表

2019年3月、CDPが企業による水課題への取り組み傾向を分析したレポート「Treading Water: Global Water Report 2018」を公表した。CDPは、ウォータープログラムを通じて、水資源をどのように管理しているのか世界中の企業に情報開示を求めている。2010年に開始した同プログラムは2018年で9度目の調査となり、署名機関投資家は、655機関、運用資産総額は87兆米ドルに上った。

2018年度のCDPウォータープログラムの質問書の送付対象企業数は、グローバルで4,969社、回答企業数は2,114社であった(うち、サプライチェーンプログラムを通じて回答要請を受けた企業は3,837社、回答社数は1,331社)。今回公表されたレポートは、質問書に回答した783社を分析対象としている[1]。

CDPはレポートで、「世界の淡水使用及び水質汚染に対する影響の70%以上は、食品、繊維、エネルギー、製造、化学、製薬、鉱業といったセクターの事業活動に起因しており、国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goal: SDGs)が掲げる、目標6「すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」の達成には取り組みが不十分である」と言及している。レポートによると、水ストレスの高い地域から取水している企業において、前報告年度からの取水量の増減、回答結果を世界地図上にマッピングした結果、数多くの企業がアジアやラテンアメリカといった水ストレスの高い地域から取水していることが明らかとなった(図1)。また、過去4年連続でCDPウォーター質問書に回答した296社を対象にした分析によると、「取水量の削減目標を掲げる企業数」の割合は2015年度の70%から2018年度は75%に増加した一方、「前報告年と比較して水ストレスの高い地域からの取水が増えた企業数」は、同期間で50%増加したと報告している(図2)。特に、取水量が増加したセクターは、食品、飲料、農業、製造、資源採掘分野であった。

ESGBook

図1:水ストレスの高い地域から取水している企業における、取水量の前年度比
(赤:同量、青:増加、緑:減少、オレンジ:初回測定)

出所:CDP 「Treading Water: Global Water Report 2018

 

ESGBook

図2:過去4年連続でCDPウォーター質問書に回答した企業における取水量の推移
(青色棒グラフ:取水量の削減目標を掲げる企業数、オレンジ色折れ線:前報告年と比較して水ストレスの高い地域からの取水が増えた企業数)

出所:CDP 「Treading Water: Global Water Report 2018

 

2018年度のCDPウォーター質問書では、水リスクに対する影響が大きい5つのセクター(食品・飲料・タバコ、石油・ガス、メタル・鉱業、電力、化学)に対し、初めて経営幹部レベルや役員に水管理に対するインセンティブを与えているかが問われた。このセクター別質問書に回答した企業のうち、77%が水リスクにさらされている、また93%の企業は経営幹部レベルで水リスクを管理監督していると回答した。一方、取水量の削減および水質汚染対応についてインセンティブを付与している企業は31%および15%のみという結果であった。

レポートでは、水課題に対する企業の取り組み状況について、業種別の分析を実施している。業種別の回答率をみると、「バイオ技術・ヘルスケア・製薬」が62%、「製造」が61%であるのに対し、「化石燃料」は31%、「小売」は24%とバラツキが大きい。なお、2月に公表された、「CDPウォーターセキュリティレポート2018:日本版」によると、日本企業においても「素材」が74%、「製造」が69%であるのに対し、「発電」は20%、「小売」は16%と業種による情報開示の温度差が大きかった(図3)。

ESGBook

図3:業種別回答率 グローバル/日本
*日本における「アパレル」「資源採掘」企業は、質問書送付/回答社数が、それぞれ3/3、1/1と限られた数であり、回答率が高い傾向にある

出所:グローバル:CDP 「Treading Water: Global Water Report 2018」、日本:「CDPウォーターセキュリティ レポート2018:日本版」よりQUICK ESG研究所にて作成

 

また業種別の傾向を把握するため、レポートではCDPが定める6つの指標における11業種別の回答率を一覧化したヒートマップを作成している(図4)。

ESGBook

図4:業種別ヒートマップ

出所:CDP 「Treading Water: Global Water Report 2018」よりQUICK ESG研究所にて作成

特徴として、「測定とモニタリング」指標では、水管理の重要性を反映し、「資源採掘」セクターにおける取り組み状況が最も進んでいる。一方、「目標とゴール」を設定していると回答した企業は他の業種に比べ低い結果であることが分かる。また「小売」セクターは「透明性」および「測定とモニタリング」ともに、他のセクターに比べ取り組み状況が悪い。衣類および食品・医薬品小売が含まれる「小売」セクターは、直接の事業活動における水使用量は限定的ではあるが、製造過程を含めたバリューチェーン全体での水管理が重要となり、今後の取り組みおよび情報開示の向上が望まれる。CDPは、「いずれの指標、すべての業種において取り組み改善の余地がある」と述べている。

CDPプログラムでは、企業による各回答を「リーダーシップ」、「マネジメント」、「認識」、「情報開示」の4つの観点から評価し、企業には最終的にAからD-までの8段階のスコアが付与される。また2018年度からは、「リーダーシップ」と「マネジメント」において、セクター毎に質問項目に対する重みづけが行われた。2018年度、Aリストに選定された企業は世界で31社であり、前年度からは大幅に選定企業数は減少した。これは、質問書の内容の大幅な変更とそれに伴う採点基準の変更が大きく影響していると思われる。なお、国別の選定企業数では、日本は米国と共に8社と最も多く、イギリスの4社、ブラジルおよび韓国の2社と続いた。

QUICK ESG研究所は、2017年に続き、CDPの日本版レポート・パートナーとして、2018年度も「水課題の多面性と機関投資家の動き」について執筆している。「CDPウォーターセキュリティ レポート2018:日本版」。

[1] 自主回答企業や親会社による回答企業も含まれる

参照

  1. CDP 「Treading Water: Global Water Report 2018」(2019年4月11日情報取得)
  2. CDP「CDPウォーターセキュリティ レポート2018:日本版」(2019年4月11日情報取得)

関連記事

  1. QUICK ESG研究所「CDPウォーターセキュリティ2018日本報告会にESG研究所 主幹 広瀬が登壇」2019年2月28日
  2. QUICK ESG研究所「【速報】CDP2018 Aリスト企業(CDP2018気候変動日本報告会~気候変動・水・森林スコアリリース~)」2019年1月22日

QUICK ESG研究所 小松 奈緒美