ESG研究所腐敗防止、取締役会が要 社外人材の活用例は
2024年05月20日
競争をゆがめる贈収賄などの腐敗の防止に関する企業の対応は取締役会が要だ。ESGのG(ガバナンス)に属する経営倫理やリスク管理の領域であり、取締役のスキルや監督力が問われる分野だからだ。業務執行にあたる経営陣を監視する役割が求められ、実効性を高めるうえで組織形態も関連しているようだ。
日本の企業行動指針であるコーポレートガバナンス・コードで腐敗防止に関連するのは、原則2-3の補充原則だ。サステナビリティ課題の1つとして「取引先との公正・適正な取引」が挙げられている。サステナビリティ課題に積極的・能動的に取り組むように検討を深めるべき主体は「取締役会」と規定されている。
ノルウェー政府年金基金の運用を担うノルウェー銀行インベストメント・マネジメント(NBIM)は2024年2月に公表した報告書で、優先度の高いサステナビリティ課題として企業への要求事項を10テーマ掲げている。その1つが腐敗防止だ。「取締役会は企業戦略に対する全体的な責任を負い、環境や社会課題に対処する必要がある」と、要求の矛先は取締役会に向かっている。
ESG評価事業を手掛けるアラベスクグループの「ESGブック」の「腐敗防止スコア・プラス(+)」(4月30日時点)を高い順に国内上場企業をランキングした。「腐敗防止スコア」は企業が国連グローバル・コンパクト原則に沿って行動して適切に開示しているかを示す「リスク・スコア」の1分野。100点満点で高いほどリスクが低いことを示す。「スコア+」は企業の開示情報にメディアのニュースや非政府組織(NGO)の報告書を加味したスコアを指す。
ランキング首位の三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)から6位の野村ホールディングス(8604)までの組織形態が指名委員会等設置会社だった。上位20社では10社を占めた。指名委員会等設置会社は会社法に規定された組織形態だ。指名、監査、報酬の3委員会を設置し、各委員会は3人以上の委員で組織し、委員の過半数を社外取締役とする。取締役会は執行役による経営を監視・評価する位置づけにある。腐敗防止スコア+の上位に名を連ねるのは、リスク管理の実効性が高いためではないかと推測される。
社外取締役をガバナンス強化に活用している企業も目立つ。LIXIL(5938)は社外取締役全員で構成する「ガバナンス委員会」が「コーポレートガバナンス基本方針」の見直しのほか、取締役会の実効性評価実施の主導などについて、協議したり取締役会に提言したりする。法定の3委員会と連携してガバナンス体制の整備、改善に努め、四半期に1回以上開催するという。「統合報告書2023」によると、23年3月期はガバナンス委員会を7回開催した。
三菱UFJは会社法上の指名委員会に該当する「指名・ガバナンス委員会」を設置。2人以上の社外取締役と代表執行役社長である取締役で構成する。株主総会に提出する取締役選任・解任議案の内容を決定するとともに、ガバナンスの方針や態勢に関する事項を審議し、取締役会に提言する。「MUFG Report 2023(統合報告書)」によると、22年度(23年3月期)は11回開催した。
また、スコア上位企業では、役員の職務に関して重大な違反があった場合などに今後支給する報酬を減額したり控えたりする「マルス条項」や支払った報酬を返還させる「クローバック条項」を定める企業が多い。ENEOSホールディングス(5020)が2023年12月、不適切行為で解任した前社長に「クローバック・マルス条項」を適用すると発表して注目を集めた条項だ。ENEOSは23年2月、22年の元会長による不適切行為も踏まえて同条項の導入を決定していた。
こうした役員懲罰規定はリスクを過度に取ったり、不正を抑えたりするのに効果的とされる。専門知識に基づいて助言したり、客観的な立場から業務執行を監督したりする社外取締役の起用に加え、役員報酬にこうした条項を加えることで、実効性がより高まるものとみられる。
(QUICK ESG研究所 遠藤大義)
参考
5月19日付の日経ヴェリタスでは、QUICK ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資最前線」で、「腐敗防止」が取り上げられました。本稿はその関連記事です。