ESG研究所統合報告書は統合されるか 
「法定開示に一本化」の意見多い

QUICK ESG研究所は「任意開示の統合報告書は法定開示である有価証券報告書のサステナビリティ情報拡充後も価値創造ストーリーを伝えるという主目的や位置づけは変わらない」との調査結果を得た。一方、企業情報開示のあり方に関する懇談会では「一つの法定開示書類により多くの情報を盛り込む体系を目指す」との意見が多かった。統合報告書は統合されていくのだろうか。

23年3月期決算から有価証券報告書でサステナビリティ情報開示が義務付けられた。これを受け、ESG研究所は5月の調査レポートで、時価総額上位50社の23年3月期以降(直近)と前年の統合報告書の編集方針などから目的や位置づけに変化が生じたかどうかを調べた。直近・前年ともに統合報告書を公開した40数社では目的や位置づけに変化はほとんど見られなかった。

企業の大半は「国際統合報告フレームワーク」や「価値協創ガイダンス」を参照し、幅広いステークホルダーに財務・非財務情報を包括して中長期的視点で独自の価値創造ストーリーを伝えるために統合報告書を作成している。ステークホルダーとの対話ツールとして機能しており、住友商事(8053)のように、直近も前年も統合報告書は「開示ツールの中核に位置し、当社グループの中長期的な成長ストーリーを皆様にお伝えするコアメディア」と記載した企業もある。

時価総額上位50社の中では、SMC(6273)のように、2022年3月期の「サステナビリティレポート2022」を23年3月期に「統合報告書2023」に衣替えするなど、23年3月期から統合報告書を作成し始めた企業もある。SMCは参考にしたガイドラインを22年3月期までの社会的責任の国際規格「ISO26000」から23年3月期は「国際統合報告フレームワークや価値協創ガイダンス」に変更した。

企業価値レポーティング・ラボが公表した「国内自己表明型統合レポート発行企業等リスト」によると、23年の発行組織は前年比94増の1017(うち上場企業943社)だった。「自己表明型」とは、「編集方針等において統合レポートであることや財務・非財務情報を包括的に記載している、企業価値創造に関する報告等の統合報告を意識したと思われる表現がある」ものを指す。「国際統合報告フレームワーク」が公開された13年の90組織から10年間で10倍以上に増えた。

一方、6月25日公表の「企業情報開示のあり方に関する懇談会 課題と今後の方向性(中間報告)」は情報開示のあり方として「統合報告書の重要な役割を維持する開示体系」(=イメージ案1)と、有価証券報告書などを一つの法定開示書類に集約し、「統合報告書で開示されることが多い情報についても、必要性を検討したうえで当該法定開示書類に含めるという体系」(=イメージ案2)を示した。「イメージ案2を目指すべきとする意見が比較的多く挙げられた」という。

イメージ案2では、投資家にとっては財務・非財務情報が一つの書類で一貫性をもって開示されるため必要な情報を得やすくなり、作成する企業にとっても類似情報を複数の媒体に重複して開示する手間が省ける。法定開示であれば経営陣や取締役会での議論も活発になると期待される面もある。実現に向けた課題も指摘されているが、一つの法定開示書類に必要とされるほぼすべての情報を盛り込むのが理想形という意見が多数派だったとみられる。

この中間報告より4カ月前に公表された資料だが、機関投資家が有価証券報告書のサステナビリティ情報拡充後の統合報告書をどう見ているか、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の調査がある。2月21日公表の「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れた統合報告書』と『改善度の高い統合報告書』」によると、統合報告書の重要度が低下すると回答した運用機関はなかった。

運用機関のコメントをみると、有価証券報告書は「実績開示が中心」「最低限の開示とどまっている印象」との指摘がある。さらに統合報告書に求める開示内容は「自社のビジネスモデルの独自性を踏まえた企業価値向上の『ストーリー』になっているかであり、その重要性については以前より増していると認識している」とのコメントもあった。もちろん有価証券報告書の定量的なデータの開示の広がりを歓迎したり、比較可能性の向上を評価したりする声もある。

統合報告書には自由な様式で独自性のある情報が記載されている。例えば、今回のESG研究所の調査対象外だが、アサヒグループホールディングス(2502)は5月31日公開の「統合報告書2024」で、社会・環境的な変化や効果を金銭的な価値に置き換える「インパクト加重会計」の手法を活用した算出結果を掲載した。こうした試みは“自由演技”とされる任意開示ならではと言えるのではないか。企業情報開示のあり方として効率化や比較可能性が問われているが、創造性や独自性への配慮も欠かせないだろう。

(QUICK ESG研究所 遠藤大義)

 

参考
6月30日付の日経ヴェリタスでは、QUICK ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資最前線」で、「統合報告書」が取り上げられました。本稿はその関連記事です。