ESG研究所米株主提案、他社比の見劣り是正を要望 非財務も横比較が一般的に

米国の12月期決算企業による年次株主総会が2022年4~6月で一巡した。環境に関する課題についての株主提案では同業他社と比較して見劣りする施策の是正を求める要望が目に付いた。エクソンモービルにシナリオ分析の報告を求めた議案や、バレロ・エナジーに温室効果ガス排出量の削減目標の報告を求めた議案など資源・エネルギー業界を例に見てみよう。

エクソンモービルの株主総会は2022年5月25日に開催された。8号議案の具体的な要求は「国際エネルギー機関(IEA)による2050年までの脱炭素を想定したネットゼロ(排出実質ゼロ)の前提を適用した場合、長期的な商品価格や炭素価格、資産の残存期間、将来の資産除去債務、資本支出、減損を含む財務諸表の前提、コスト、見積り、評価にどう影響するか評価した監査済みの報告書」だった。

提案者はクリスチャン・ブラザーズ・インベストメント・サービシーズ(CBIS)など。議案の説明で「2021年9月の独立評価によると、エクソンモービルの財務諸表は気候関連の仮定と推定に関する必要な透明性を欠き、パリ協定に沿った仮定と推定が使用されていないようだ。対照的に、同業者(ロイヤル・ダッチ・シェル=現シェル、BP、トタルエナジーズ)は監査済み財務諸表で、より透明性の高い開示をし、気候変動への配慮の程度を明確に示した」と主張した。

エクソンモービルの取締役会は「要求された情報を取りまとめた報告を最近出した」として反対の意見を表明していたものの、議案は賛成率が51.0%(「賛成数」を「賛成数+反対数」で割って算出)に達した。

一方、2022年4月28日に開催されたバレロの株主総会の4号議案は「パリ協定の1.5度目標と整合する短期および長期の温室効果ガス排出量削減目標と達成計画、その進捗に関する年次報告」を求めた。提案者はマーシー・インベストメント・サービシーズだ。

議案の説明では「バレロは温室効果ガス排出量の抑制において同業他社に遅れをとっている。フィリップス66は最近、スコープ3の排出量の目標を設定した。マラソン・ペトロリアムはスコープ3の排出量を報告し、中期的な排出量目標を設定し、設備投資を低炭素燃料への移行に合わせている」と主張した。

さらに「ロイヤル・ダッチ・シェル(現シェル)、BP、エクイノールは排出量を削減し、設備投資と事業活動をパリ協定のネットゼロ目標に合わせるという野心的な目標を発表した石油およびガス会社の例だ」と同業他社の取り組みを指摘し、バレロに対応を迫った。

同議案は否決されたが、賛成率42.4%(「賛成数」を「賛成数+反対数+棄権数」で割って算出)に達した。取締役会は「バレロは、積極的な温室効果ガス排出削減目標を達成するための明確なロードマップを提供している数少ない会社の1つだ」と主張し、反対を表明していた。

同業他社との比較を根拠にした株主提案は資源・エネルギー業界にとどまらない。例えば、建機のキャタピラーが6月8日に開催した株主総会の4号議案は気候変動に関する追加開示を求めた内容だった。提案者は米非営利団体(NPO)のアズ・ユー・ソウなどだ。

議案の説明によると、「キャタピラーの排出削減目標は、(直接排出の)スコープ1と(間接排出の)スコープ2の排出にのみに対応している。対照的に、建設資材セクターの30の同業者は、(科学的知見に基づいて温暖化ガスの削減目標を定める国際組織)SBTイニシアチブを通じて、排出削減目標を検証することを約束している」と主張した。

温室効果ガス排出量削減目標に関して、スコープ3も含め、会社の運営、製品の全範囲に対象を広げるよう求めた同議案に、キャタピラーの取締役会は賛意を示し、賛成率95.50%(「賛成数」を「賛成数+反対数+棄権数」で割って算出)で可決された。

株主提案の主張の裏付けを精査する必要があるが、同業他社との比較はわかりやすい。自社以外の温室効果ガス排出量であるスコープ3や、その目標を開示する会社が増えてくると、未開示の会社や、開示していても目標が見劣りする会社にとってプレッシャーになるに違いない。非財務情報でも業界の横比較がすでに一般的になってきたのかもしれない。

参考
8月7日付日経ヴェリタスでは、QUICKリサーチ本部ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資 最前線」で、米株主提案が取り上げられました。本稿はその関連記事です。

QUICKリサーチ本部プリンシパル ESG研究所エディター 遠藤大義