ESG研究所社会貢献、評価・開示に課題 B4SIの枠組みが参考に

株主だけでなく従業員や取引先、地域社会などの利害関係者も尊重する「ステークホルダー資本主義」の意識が高まる中、企業による寄付や慈善活動などの「地域社会投資」が注目を集める。企業は経営戦略と紐づけた社会貢献の方針を定めたうえで、活動のインパクト(影響)を測定し、創造した価値を開示することが求められている。日本企業の社会貢献活動を巡る動向を見ていこう。

S&Pグローバルの「コーポレート・サステナビリティ評価(CSA)」によると、企業は受益者と株主双方に価値を創造するため、慈善活動の明確な方針を持ち、費用対便益の観点からその効果を測定する必要がある。

日本経済団体連合会(経団連)の「社会貢献活動に関するアンケート調査結果」(2020年9月15日)では、社会貢献の役割や意義について回答企業の83%が「経営理念やビジョンの実現の一環」と答え、2005年度調査の37%から急増した。20年度調査から2年経過し、ESG投資が普及する中で、社会貢献を経営戦略の一部ととらえる傾向が強まっている可能性がある。

一方、同調査では社会貢献活動の推進上の課題について「成果が見えにくい活動内容に対する評価の実施」「定量的な評価の実施」「活動のインパクト評価の実施」「活動や成果に関するレポーティング」という回答が目立った。社会貢献の評価方法や開示に課題を感じる会社が多いことがうかがわれる。

地域社会貢献の影響の測定や開示については国際的なガイドラインであるビジネス・フォー・ソサイタル・インパクト(B4SI)の枠組みが参考になる。B4SIの枠組みは、投入した現金や労働時間といった「インプット」、活動の恩恵を受けた人数や受益団体数などの「アウトプット」、参画した従業員のスキルの変化やブランド認知度向上、受益者の生活の質向上といった「インパクト」の開示を求めている。

本稿では、B4SIネットワークに参加する富士通(6702)の公開情報を見てみよう。富士通グループの「サステナビリティデータブック2022」によると、パーパス(存在意義)実現に向け、非財務面では7つの重要課題の1つに「コミュニティ」を設定。2022年度目標として「社会課題に関連した社会貢献活動に参加した従業員数の増加率が、ニューノーマル下において、19年度比プラス10%」というKPI(重要業績評価指標)を掲げている。

21年度のコミュニティ活動支出は22億5300万円で、内訳は「イベント協賛など」が9億2000万円、「現金での寄付」が8億7200万円、「有給での従業員ボランティア活動の金銭価値」は3億4000万円など。年に5日、最長20日まで積み立て可能なボランティアに活用できる休暇制度を設けており、21年度は156人が積立休暇(延べ750日)を取得した。これらが「インプット」だ。

活動事例として「キャンプ・クオリティ がんを患う子どもたちへの支援」(2万人の子どもたちに必要な情報を提供)、本業で強みを持つICT(情報通信技術)分野に焦点を当てた学びの場の提供などを挙げている。音を振動や光で感じることができる「Ontenna(オンテナ)」を開発し、約8割のろう学校に無償提供し、社会のダイバーシティの理解促進に貢献しているという。こうした開示から「アウトプット」や「インパクト」の一端がうかがえる。

前述の経団連の調査で社会貢献活動は「社員が社会的課題に触れて成長する機会」と回答企業の53%が答え、2005年度調査の4%から大幅に増加した。従業員の意識・行動の変化といった「インパクト」の測定や情報の提供も重要だ。企業は社会貢献を費用便益分析したり、影響や効果を可視化したりすることが欠かせない。

参考
10月30日付の日経ヴェリタスでは、QUICKリサーチ本部ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資 最前線」で、企業の地域社会投資が取り上げられました。本稿はその関連記事です。

QUICKリサーチ本部プリンシパル ESG研究所エディター 遠藤大義