ESG研究所“炭素投資指標”ランキング上位の環境スコア、総じて高評価

QUICKリサーチ本部ESG研究所は二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス(GHG)排出量や各社がCO2を独自に値付けした「インターナル・カーボン・プライス(内部炭素価格)」と株価や財務データを組み合わせた“炭素投資指標”を算出した。具体的には国内上場会社の「炭素調整後の予想PER(株価収益率)」「予想炭素排出原単位」「予想炭素利益率」だ。ランキング上位の会社のESGスコアを調べたところ、総じて環境に関するスコアは高いことがわかった。

炭素調整後の予想PER(スコープ1、2、3の合計で算出)を高い順にランキングしたところ、首位は凸版印刷(7911)、2位はナブテスコ(6268)、3位は第一三共(4568)になった。3社そろって英非営利団体CDPの「Climate Change(気候変動) 2021」調査によるスコアは最高のAだった。上位10社では5位の住友化学(4005)、7位のコニカミノルタ(4902)もAで、他の5社は8段階評価で2番目のA-(Aマイナス)と、高い評価を受けている。

一方、「予想炭素排出原単位」を低い順にランキングしたところ、首位は電通グループ(4324)、2位は小野薬品工業(4528)、3位はアステラス製薬(4503)だった。5位の塩野義製薬(4507)まで「予想炭素利益率」の高い順のランキングと同じ結果になった。上位5社のうち小野薬と4位の野村総合研究所(4307)はCDPスコアがAと高評価だった。

「炭素調整後の予想PER」は、予想純利益から、内部炭素価格と炭素排出量を掛けた炭素排出費用を引いた「炭素調整後の純利益」を「自己株式を除く普通株式数」で割って「1株当たりの炭素調整後の純利益」を出し、株価をこの値で割って算出した。「予想炭素排出原単位」は予想売上高(100万円)当たりの炭素排出量、「予想炭素利益率」は予想営業利益(100万円)を炭素排出量(トン)で割った値だ。内部炭素価格と炭素排出量は、各社がCDPの2021年の気候変動調査に回答した値、予想純利益などは22年8月31日時点で最新の会社予想、株価は同日終値を使用した。

ランキング上位の会社について、アラベスクグループのESG評価サービスである「ESGブック」のスコアを調べたところ、総じて「環境サブスコア」が高かった。ESGブックのスコアは環境・社会・企業統治それぞれのサブスコアから、3つのサブスコアはさらに合計22の「フィーチャーレイヤー」と呼ばれる中項目から構成される。

例えば、「環境サブスコア」は「排出」「リソースの使用」「廃棄物」「水」など7つの中項目から評価されている。スコアだけでなくサブスコアも中項目も100点満点で点数化される。ESGブックでは業種ごとに評価項目と株価との相関を調べ、相関度合いに応じて評価項目のウエートを業種ごとに変え、ウエートは四半期ごとに更新している。中項目の「排出」のスコア全体に占めるウエートは全業種の12四半期平均で3%前後、最も高い業種では6%強という。

ESGブックの世界企業全体の「環境サブスコア」と「排出スコア」の平均は8月31日時点でそれぞれ50点前後。このうち日本企業全体の平均はそれぞれ59.65点、58.54点だった。ランキング上位では日本企業の平均を上回った会社が多い。ナブテスコやオムロン(6645)、塩野義などは全体のスコアも高い。

PERの水準は業種や会社ごとに異なり、どの水準を超えたら割高といった絶対基準があるわけではない。「炭素調整後の予想PER」は各社によって内部炭素価格に違いがあるうえ、炭素排出量は環境を構成する1要素に過ぎないこともあり、100倍前後でも株価が高過ぎると一概には言えないだろう。各社の投資指標の時系列変化や業界他社の動向、様々なESG評価会社のスコアと組み合わせてESG要因が企業価値に与える影響を見極める必要がある。

参考
9月25日付の日経ヴェリタスでは、QUICKリサーチ本部ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資 最前線」で、非財務の定量データを財務データと組み合わせて投資判断に活用する方法が取り上げられました。本稿はその関連記事です。

QUICKリサーチ本部プリンシパル ESG研究所エディター 遠藤大義