ESG研究所気候機会の指標「削減貢献量」 スコープ3との違いは
2023年06月26日
温暖化ガス(GHG)排出量の「削減貢献量」は気候関連の機会を定量化した指標だ。自社の製品・サービスを使用することによって、社会全体のGHG排出量削減にどれだけ寄与するのかを示す。これまで企業が開示を進めてきたGHG排出量のスコープ3(企業活動に関連する他社のGHG排出量)とどう違うのか、内外で相次いで発表された指針を基にポイントを調べた。
今年3月に国際的な企業団体である「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」が削減貢献量の算定・開示の指針を発表した。国内では脱炭素に取り組む企業で構成する「グリーントランスフォーメーション(GX)リーグ」が「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」を発表し、削減貢献量の開示・評価の考え方を示した。
両指針によると、削減貢献量は、従来の製品やサービスしかなかった場合の排出量(ベースライン)と、開発・使用された新製品やサービス(ソリューション)で想定される排出量の差分だ。ソリューションによる社会全体の気候変動緩和のインパクトを仮定に基づいて算定する。
一方、企業は国際基準である「GHGプロトコル」を基に、GHG排出量をスコープ1、2、3の3つに分けて算出している。スコープ1は工場での燃料の燃焼など自社の直接排出、スコープ2は他社から供給された電気などの使用に伴う自社の間接排出を指す。スコープ3は15のカテゴリーに区分されており、「販売した製品の使用」(カテゴリー11)も含まれる。
削減貢献量もスコープ3もともにGHGの量として表され、削減貢献量はスコープ3のカテゴリー11と似ているが、カテゴリー11は顧客など販売先での排出量であり、“置き換え効果”を推定する削減貢献量と異なる。削減貢献量の比較対象は、企業が開発した新しいソリューションがなかった場合に可能性が最も高い製品やサービスによる排出量なので、他社の商品でも構わない。
また、スコープ3も含めGHG排出量は昨年と今年など同じ企業内で比較される。WBCSDの指針では削減貢献量とGHG排出量を別々に開示することを求めている。なお、バリューチェーン内の複数の企業が同様のソリューションからそれぞれ削減貢献量を主張する「二重計上」は容認されている。
削減貢献量とスコープ3の違いを理解するうえで、日立製作所(6501)がサステナビリティレポート2022で示した「CO2削減量算定の考え方」が参考になりそうだ。同社は製品・サービスの「省エネルギー性能向上」をスコープ3に分類。その一方で、従来と同等の価値をより少ない排出量で提供する「技術革新による新たなシステム・ソリューション」と、再生可能エネルギーなど「非化石由来のエネルギーシステム導入」を削減貢献量と整理している。
企業が脱炭素の効果を生む新商品を開発しても製造・販売に伴って排出量を増やすと、外部から評価されづらいため、削減貢献量のような指標が求められてきた。ただ、WBCSDの指針では削減貢献量を主張するには、企業の排出量削減目標の策定や定期的な開示といった「適格性」が求められる。カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)に向けた計画とその実行が重要なのは言うまでもない。
(QUICK ESG研究所 遠藤大義)
参考
6月25日付の日経ヴェリタスでは、QUICK ESG研究所が実施した調査などを基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資最前線」で、「削減貢献量」が取り上げられました。本稿はその関連記事です。