ESG研究所森林関連の株主提案の可決事例も CDP森林レポート2021日本版公開

CDP フォレスト レポート 2021:日本版

QUICK リサーチ本部ESG研究所は英非政府組織(NGO)であるCDPのパートナーとして2021年の「フォレスト(森林)レポート日本版」を執筆した。CDPは「フォレスト」のほか「気候変動」「水セキュリティ」についても世界の企業に調査した結果を毎年レポートにまとめている。2021年の日本版のレポートは、今年1月の「簡易版」に続き、4月に「完全版」が公開された。

今回公開された完全版では、森林劣化を防ぐ取り組みやその報告を求める株主提案が総会決議で可決された米国の先進的な事例を取り上げている。米国の日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(PG、以下「P&G」と表記)と、世界各国で農業、食品加工事業を展開するバンジ(BG)だ。バンジは株主提案に対して取締役会も賛意を示していたが、P&Gは反対を表明していたものの、可決された。

P&Gは2020年10月の株主総会で、サプライチェーンにおける森林破壊と森林の劣化をなくすための取り組みを改善して報告するよう要請する株主提案が67.7%の賛成多数で可決された。一方、バンジの2021年5月の株主総会ではブラジルのアマゾンやセラード地域において、サプライチェーン上の大豆生産に伴う取り組みの改善とその報告を要請する株主提案が98.9%の賛成多数で可決された。

欧米でもこうした事例は少数だが、先進国が及ぼす途上国の森林減少への影響が、投資家の間で認識され始めてきたためだろう。先進国による法規制の厳格化も後押ししているとみられる。BNPパリバ・アセットマネジメントのESGアナリストで生物多様性に詳しいロバート・アレクサンダー・プジャード氏はインタビューで、「アマゾンの熱帯林が失われることで、地球全体がシステミックリスクに陥る可能性があるということを認識する必要がある」と主張した。

CDPによる調査では、各企業の情報開示、認識、マネジメント、リーダーシップの4レベルで評価し、「A」から「D-」の8段階でスコアを付けている。2021年度のフォレストの分野でAリストに入った日本企業は花王(4452、木材・パーム油)と不二製油グループ本社(2607、パーム油)の2社だった。A-を得たのは、住友林業(1911、木材)、王子ホールディングス(3861、木材)、丸紅(8002、木材)、豊田通商(8015、木材)、住友商事(8053、木材)の5社だった。

質問書では森林減少の要因となるコモディティ別に回答を求めている。木材とパーム油では8割を超す企業がリスクと同時に機会を認識。先駆的な企業は、森林コモディティ・リスクの把握だけではなく、ビジネス上の機会につなげている。

今回のフォレストの質問送付先企業数は211社で、57社から回答があった。森林減少を食い止めることは、気候変動を抑えたり、生物多様性を維持したりするうえで重要な課題であり、自然資本の大切さも認識されつつあるが、回答率は3割に満たない。日本企業もサプライチェーンも含めて原材料の調達において適切に対応し、情報を開示することが求められている。

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