ESG研究所株主提案、「脱炭素」だけでなく「森林」にも注目 米国では議案可決事例も

気候変動関連の株主提案が注目を集めている。温室効果ガス排出量の削減に目が向きがちだが、米国では2020年以降、森林保全関連の可決事例も出ている。森林保全は気候変動の抑制だけでなく生物多様性を維持するうえでも重要な課題との認識が株主の間で徐々に広がっているようだ。

米NPOのCeres(セリーズ)の「株主決議データベース」によると、「2010年以降の森林減少・劣化関連」で提出された株主提案のうち可決された議案が2件ある。米国の日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(PG、以下「P&G」と表記)と、世界各国で農業、食品加工事業を展開するバンジ(BG)だ。

各社が米証券取引委員会(SEC)に提出した報告書で見ていこう。P&Gの2020年10月13日の株主総会で「森林破壊をなくすための取り組みに関する報告」を求めた株主提案による議案が可決された。会社側が反対意見を表明していたにもかかわらず、67.7%の賛成多数だった。

バンジの2021年5月5日の株主総会では大豆生産に伴う取り組みの改善とその報告を要請した株主提案による議案が98.9%の賛成多数で可決された。会社側が賛意を表明していたこともあり、ほぼ満票の賛成票を集めた。

アウトバック・ステーキハウスなどを展開するブルーミン・ブランズ(BLMN)についても触れておきたい。セリーズのデータベースだと、「温室効果ガス(GHG)排出量削減」に分類される、2021年の株主提案による議案が賛成多数で可決された。一方、「deforestation(森林破壊)」に分類される2020年の株主提案は否決されている。順を追って見てみよう。

2020年の株主提案は「2020年10月31日までに、サプライチェーン温室効果ガス排出を軽くする努力と厳格さをどのように増やすことができたか、森林伐採と土地使用変化を含めて、報告を投資家に提出すること」を求める内容だった。2020年5月29日の株主総会で同議案は賛成の割合が26.5%で否決された。

2021年の株主提案は「サプライチェーンからの排出を含む気候変動への全体的な取り組みの規模、ペース、厳格さを向上させることができるかどうか、どのように高めることができるかの報告を合理的な時間内に発行すること」を要求した。2021年5月18日の株主総会で同議案は76.2%の賛成多数で可決された。

2020年、2021年ともに提案したのは、グリーン・センチュリー・キャピタル・マネジメントだ。2021年も「森林伐採と土地使用変化」も念頭に置いていたとみられる。国連責任投資原則(The Principles for Responsible Investment:PRI)「リゾリューション・データベース」では「deforestation」のサブテーマで検索するとブルーミン・ブランズの21年の議案が登場する。

ブルーミン・ブランズの株主提案に対する賛成の割合が1年間で26.5%から76.2%に高くなったのは、それだけ株主の気球温暖化対応への意識が向上したためのように見える。日用品や食品加工、レストランチェーンなどサプライチェーンを含めた気候変動対策とその調査報告の情報開示が求められてきているのは間違いない。「森林」にも目配りが欠かせなくなってきたと言えるだろう。

参考
QUICK リサーチ本部ESG研究所は英非政府組織(NGO)であるCDPのパートナーとして2021年の「フォレスト(森林)レポート:日本版」を執筆しました。2021年のレポートは2022年1月の「簡易版」に続き、4月に「完全版」が公開されました。本稿はその関連記事です。

QUICKリサーチ本部プリンシパル ESG研究所エディター 遠藤大義