ESG研究所有報の女性管理職比率、案外難しい横比較
30%以上の企業はどこか
2025年09月08日
JPX総研と日本経済新聞社が今年7月から算出を始めた「JPX日経インデックス人的資本100」(以下、JPX日経HC100)は、銘柄選定で「女性管理職比率(管理職に占める女性の割合)30%以上」が加点項目の1つだ。8月の銘柄定期入れ替えでは7社が該当したと発表された。女性管理職比率は2023年3月期以後の決算期から有価証券報告書(以下、有報)で開示が義務付けられた。今回、該当しそうな各社の有報で公表値を調べたところ、横比較が意外と難しいことがわかった。
人的資本に着目した新しい株価指数であるJPX日経HC100は、母集団が「JPX日経インデックス400」(以下、JPX日経400)で、それを構成する400社の中から人的資本の評価の高い100社が選ばれる。毎年6月の最終営業日を基準日として、8月の最終営業日に構成銘柄の定期入れ替えが実施される。今年の定期入れ替えは8月22日に発表され、8月29日から適用された。
JPX日経HC100の構成銘柄の選定にはESG評価機関であるESGブックの「人的資本スコア」に3項目を加点した「総合人的資本スコア」が使用される。加点3項目の1つが「女性管理職比率30%以上」だ。JPX総研と日本経済新聞社の発表資料によると、今年8月の入れ替え前は「女性管理職比率30%以上」に3社が該当していた。具体的な企業名は発表されていないため、母集団のJPX日経インデックス400の入れ替え前と入れ替え後の構成銘柄を調べた(表)。
「有報の提出会社(親会社)は女性管理職比率が30%以上だが、提出会社を含めた連結では30%未満」のケースや、その逆に「提出会社は30%未満だが、連結では30%以上」もある。連結子会社も国内だけか、海外も含めるかによって変わる場合もある。また有報の提出会社が持ち株会社の場合、りそなホールディングス(8308)のように傘下の銀行などからの出向者で「直接雇用する労働者はいない」というケースもある。
金融庁は2023年1月末、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正を発表。提出会社やその連結子会社が女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)等に基づき、女性管理職比率を公表する場合には、有報で記載を求めることにした。現在の女性活躍推進法では、従業員が301人以上の企業は女性管理職比率など8項目から1項目を選んで公表する義務がある。25年6月の法律改正で、26年4月1日からは従業員101人以上の企業は女性管理職比率の公表が義務付けられる。
現在、従業員300人以下は開示義務がないのに参考情報として有報に開示しているのは評価に値する。一方で、連結グループにおける会社ごとや連結ベースの比率の方が、より実態を表していると言える。ただ、海外の連結子会社も含めた場合、女性活躍推進法の定義や計算方法と異なるケースもあり得る。
データの利用者が、企業が公表する複数の数値の中から1つだけ選んで横比較しようとする場合、どうしても判断が入る。いったん数表が出来上がると、脚注が書かれていても、数値が独り歩きしかねない。それだけに、データを提供する側も利用する側も注意を払う必要があるだろう。
(QUICK ESG研究所 遠藤大義)