ESG研究所投資拡大に収益・基準・人材が課題 
ESG投資実態調査2023

ESG投資実態調査2023

QUICK ESG研究所が1月30日に公表した「ESG投資実態調査2023」からESG投資拡大の鍵を握る課題が浮き彫りになった。1つはリターン(収益)、2つ目はESGの基準、3つ目は専門人材だ。

5回目となる23年調査は対象数265に対し回答数は73だった。回収率は3割弱だが、企業年金基金や共済組合といった「年金基金」を含むアセットオーナー(資産保有者)の回答数が27と前回の13から大幅に増えたのが特長だ。

 

 

■「リターンの相対的な低さ」がESG縮小理由の1つ

日本株の運用資産全体に占めるESG投資の割合に関する設問で「5年後に割合を縮小する」という回答が1機関からあった。21年調査からこの設問を始め、「縮小」の回答は今回が初めて。縮小の理由の1つは「リターンの相対的な低さ」だ。

 

現在と5年後のESG投資割合

 

22年2月24日のロシアのウクライナ侵攻後、「ESGマネー」が避ける温室効果ガス(GHG)多排出のエネルギー関連株が総じて上昇した。「縮小」と回答した機関のリターンは不明なので、ESG投資を推進する最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を参考として調べた。

「2022年度業務概況書」によると、GPIFは国内株式、国内債券、外国株式、外国債券に4等分して投資しており、国内株式の23年3月末時点の残高は50兆3337億円だ。22年度(23年3月期)の時間加重収益率(運用元本の流出入の影響を排除した収益率)は5.54%で、ベンチマークである配当込み東証株価指数(TOPIX)の5.81%を下回った。

 

 

■「基準に普遍的な合意がない」のがもう1つの理由

ESG投資の割合を「縮小」と回答した機関のもう1つの理由は「ESGの基準や報告基準に普遍的な合意がない」こと。このESGの基準が2つ目の課題だ。23年調査で、環境面から持続可能性に資する経済活動を分類する「タクソノミー」の日本版の必要性について尋ねたところ、「必要だと思う」「どちらかといえば必要だと思う」の合計が63%(有効回答数に対する割合、以下同じ)を占めた。

 

日本版タクソノミーが必要な理由

 

日本版タクソノミーが必要な理由は「情報開示するうえで明確な基準があった方が望ましいため」(65%)が最多で、「環境対策を装う『グリーンウオッシュ』を防ぐため」(60%)、「投資判断するうえで明確な基準があった方が望ましいため」(47%)が続いた。

国連の責任投資原則(PRI)は23年3月、「日本におけるサステナブルファイナンス・タクソノミーの必要性」という報告書を公開し、調査結果に基づいて政策を提言した。同調査によると、「日本はサステナブルファイナンス・タクソノミーを開発すべきである」と58%が回答した。

金融庁、経済産業省、環境省は2021年5月、「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を公表。経産省は業種別の「トランジション・ファイナンス推進のためのロードマップ」を策定している。日本にはこのようなガイダンスがあるものの、明確な基準があった方が望ましいと考える投資家が一定数いるようだ。

 

 

■ESGの「専門部門・部署・人材なし」22%

23年調査ではエンゲージメント(対話)活動で対象企業に対応を促すための工夫として「アナリストを対話に同席させる」が58%と過半を占めた。22年調査の選択肢は少し異なるが、「セクターアナリストを対話に同席させる」が38%で、単純に比較すると20ポイント上昇した。専門人材が3つ目の課題だ。ESG課題は環境、社会、ガバナンスと多岐にわたる。自らエンゲージメントを実施する機関にとって、専門人材の役割が大きくなっているようだ。

 

ESGの専門部門・部署と専門人材

 

一方、「専門部門・部署はなく、各運用部門に専門人材もいない、兼任もいない」との回答が22%あった。「専門部門・部署があり、専門人材を配置している」のは46%と22年調査に比べ13ポイント低下した。アセットオーナーの一部はエンゲージメントを委託先のアセットマネジャーに任せていることが影響した面があるにせよ、少し気がかりだ。

世界経済フォーラムが23年5月に公開した「仕事の未来レポート2023」によると、急成長する職種で「サステナビリティ・スペシャリスト」は「AI(人工知能)・機械学習スペシャリスト」に次いで2位だった。環境に配慮し、持続可能な社会への移行を目指すうえで専門人材が求められているのは投資業だけではないが、人材の育成や獲得、活躍もESG投資拡大の鍵を握りそうだ。

(QUICK ESG研究所 遠藤大義)

 

参考
2月4日付の日経ヴェリタスでは、QUICK ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資最前線」で、「ESG投資実態調査2023」が取り上げられました。本稿はその関連記事です。

 

《調査の概要》

名 称:「QUICK ESG投資実態調査2023」
対 象:「日本版スチュワードシップ・コード」の受け入れ表明機関もしくは責任投資原則(PRI)署名機関の中から抽出した、日本国内に拠点を置く265の機関投資家
回答数:73(うちアセットマネジャー46、アセットオーナー27)
期 間:2023年8月21日~10月10日

ESG投資実態調査2023(要約版)はこちら