ESG研究所動物福祉はESG課題のEかSか 方針制定企業の位置づけは

わかもと製薬(4512)の株主総会で動物実験に関する株主提案議案が上程され、ESG課題の1つとして「アニマルウェルフェア(動物福祉)」が注目された。アニマルウェルフェアはESGのどの分野の課題なのか。アニマルウェルフェアポリシー(方針)を制定している組織がどう位置づけているのか、各組織の開示情報から探った。

アニマルウェルフェアとは「動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態」と、国際的な動物の衛生向上を目的とした組織である国際獣疫事務局(OIE)が定義している。OIEの掲げる「飢え、渇き及び栄養不良からの自由」や「恐怖及び苦悩からの自由」など「5つの自由」が基本原則とされる。動物を科学的にストレスの少ない状態に飼育し、疾病を減らすのが目的だ。

つまり、アニマルウェルフェアは「動物福祉」に配慮した飼育や養殖の環境を求めるものの、動物を人のために利用することを否定していない。究極的に利用を止めようとする考え方とは異なる。アニマルウェルフェアを幅広くとらえれば、食品安全のほか、畜産における抗生物質の使用による薬害耐性問題や排泄物による生態系への影響、家畜の温室効果ガスの排出といった課題も関連する。

アニマルウェルフェアの評価指標として「畜産動物福祉に関する企業のベンチマーク(BBFAW)」がある。また、FAIRRイニシアチブによる「コラーFAIRRタンパク質生産者インデックス」や、ワールド・ベンチマーキング・アライアンス(WBA)の「食料・農業ベンチマーク」の評価項目に「アニマルウェルフェア」が含まれる。これら3評価指標の調査対象で、アニマルウェルフェア方針を制定している国内13組織がどう位置付けているのか調べた。

各組織のウェブサイトでアニマルウェルフェアの方針や取り組みをE・S・Gのどれに区分しているか調査したところ、「S(社会)」に分類している組織が多い。明治ホールディングス(2269)は「サステナビリティ情報索引」で、スターゼン(8043)はサステナビリティの重要課題の表で、それぞれアニマルウェルフェアを「S」に位置付けている。伊藤ハム米久ホールディングス(2296)も同様だ。

味の素(2802)は「社会」に属する「サプライチェーンマネジメント」に「アニマルウェルフェアに関するグループポリシー」を載せている。マルハニチロ(1333)は「『社会価値』の創造」の「持続可能なサプライチェーンの構築」の中に「調達基本方針」などと並べてグループの「アニマルウェルフェアに関する方針」を掲げている。

日本ハム(2282)はサステナビリティの「活動報告」を「環境」「人と社会」「食とスポーツ」の3つに分類しており、「人と社会」の中に「アニマルウェルフェアの取り組み」を掲載している。「人と社会」の中には「アニマルウェルフェアの取り組み」と並んで「人権の尊重」「多様な人材の活躍に向けて」「健康経営の推進」などといった社会課題が含まれている。

一方、「E(環境)」に分類する組織もある。ニッスイ(1332)は「環境」の「水産資源の持続可能性」の中で「養殖におけるアニマルウェルフェア方針」を公開している。セブン&アイホールディングス(3382)では「環境」の「持続可能な原材料調達」の分野別方針に「畜産物」や「水産物」が登場する。この「畜産物」の中で「動物の5つの自由及び動物福祉の考え方に基づく飼養管理が行われている畜産物の調達」に言及している。

また、WBAの「食料・農業ベンチマーク」は「ガバナンス・戦略」「環境」「栄養」「社会インクルージョン」の4分野、46指標で評価されている。アニマルウェルフェアは「環境」を構成する12指標の1つに位置づけられている。

アニマルウェルフェアを環境・社会両方に属すると位置づける組織があることも見逃せない。丸紅(8002)のアニマルウェルフェアポリシーは「サプライチェーン」の中に登場する。「サプライチェーン」は大分類の「社会」だけでなく「環境」にも含まれており、両者に関わるという位置付けのように見受けられる。また、全国農業協同組合連合会は「社会・環境」の一項目として「アニマルウェルフェアに関する取り組み」を載せている。

このほか、キューピー(2809)はサステナビリティ活動として「気候変動への対応」や「人権の尊重」などと並べて「持続可能な調達」を取り上げている。アニマルウェルフェアは「持続可能な調達の推進」の中で扱っている。気候変動に代表される環境、人権に代表される社会とは別枠で、「調達」という切り口によって分類している。

組織ごとにマテリアリティ(重要課題)が異なることもあり、アニマルウェルフェアを「環境」や「社会」に無理やり当てはめる必要はないのかもしれない。ただ、各社で開示の箇所や方法がまちまちだと、外部からはわかりづらく、企業の比較も難しい。解決策の1つは、サステナビリティ開示基準に沿って情報を公開するか、こうした開示基準の「対照表」を示し、情報の掲載箇所を明示することではないか。

例えば、「食肉、鶏肉、乳製品」業種のSASB(サステナビリティ会計基準審議会)基準には開示トピックの1つに「動物の世話と動物福祉」がある。その指標は「妊娠ストール(妊娠した豚を閉じ込める狭いおり)を使用せずに生産された豚肉の割合」「放し飼い鶏卵(採卵鶏を閉じ込めるケージ飼育をしないケージフリー卵)販売の割合」「第三者機関による動物福祉基準の認証を受けた生産量の割合」で構成される。

プリマハム(2281)のようにSASB基準やGRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)基準の「ガイドライン対照表」を掲載する企業も複数見受けられる。こうすれば、基準に沿った開示の有無も含め、取り組みを確認しやすい。企業の情報開示がアニマルウェルフェア全般に対する認知度の向上や各企業の評価の鍵を握るとみられる。

(QUICK ESG研究所 遠藤大義)

 

参考
8月11日付の日経ヴェリタスでは、QUICK ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資最前線」で、「動物福祉」が取り上げられました。本稿はその関連記事です。