ESG研究所企業の生物多様性への備えは十分か 投資家は「対話」推進

生物多様性に影響を与える可能性のある企業と対話するための投資家イニシアチブ「ネイチャー・アクション100」は対象となる100社の「企業ベンチマーク」の評価結果を10月21日からコロンビアで開催される国連生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)の期間中に公表する。また国連責任投資原則(PRI)が生物多様性に関する協働エンゲージメント(対話)のための「スプリング」設立を公表してから1年経過した。企業側の取り組みは十分だろうか。

ネイチャー・アクション100の対象企業には、味の素(2802)、王子ホールディングス(3861)、伊藤忠商事(8001)、丸紅(8002)、三井物産(8031)の日本企業5社が含まれている。同イニシアチブが対象としているは、①バイオテクノロジー・医薬品②農薬などの化学③家庭用品④消費財小売⑤食品生産・加工⑥食品・飲料小売⑦林業・紙製品⑧金属・鉱業――の8セクターだ。

一方、PRIが昨年10月、東京で開催された年次カンファレンスに併せて設立を公表した「スプリング」の対象企業は60社だ。24年2月に第一陣の40社、同年6月に第二陣として20社を公表した。日本企業では第一陣に日産自動車(7201)とトヨタ自動車(7203)、第二陣には不二製油グループ本社(2607)とブリヂストン(5108)が選定されている。

スプリングの対象セクターは企業数が多い順に、①農業・食品・消費財②鉱業③自動車④タイヤ⑤金融⑥化学・農薬⑦石油・ガス――となっている。企業の選定は、①森林破壊が発生・進行中の優先地域の選択②森林破壊の要因を形成する政策分野を特定③政策分野への影響力のレベルに基づいて重点企業を選定――という手順を採用した。

 

 

2022年12月開催のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」に沿って30年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させるため、投資家も企業も対応を迫られている。企業は23年9月に公表された自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)提言に沿って自然資本や生物多様性への依存やインパクト(影響)、リスク、機会を特定・評価し、情報開示を始めるのが対応の1つだ。

TNFD提言の採用を宣言した組織数をTNFDのウェブサイトで調べたところ、10月11日現在、全世界で462あり、このうち日本は125(27%)と国・地域別で最も多い。125のうち上場企業は103社ある。103社を東証33業種別に集計したところ、食料品が10社で最も多く、次いで化学と銀行業が各9社、建設業と電気機器が各8社で続いた。「その他(投資法人)」を除き、27業種に及んでおり、日本企業の関心は総じて高いと言える。

企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」でプライム市場上場企業は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言かそれと同等の枠組みに基づく開示が求められている。TNFD開示にはこうした要請がないものの、政府が今年3月に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を公表し、「ネイチャーポジティブ経営」への移行を促している。

TNFD提言という開示の枠組みができたうえ、政府の後押しもあり、企業のネイチャー・ポジティブ(自然再興)に向けた取り組みや投資家との対話が進むものと期待される。QUICK ESG研究所が昨年実施した「ESG投資実態調査2023」で重視するエンゲージメントのテーマを複数回答で尋ねたところ、「生物多様性」を選択した機関投資家数は回答した組織全体の33%を占めた。現在集計中の24年調査でどの程度増えたのか要注目だ。

(QUICK ESG研究所 遠藤大義)

 

参考
10月20日付の日経ヴェリタスでは、QUICK ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資最前線」で、「自然関連開示」が取り上げられました。本稿はその関連記事です。