ESG研究所ビジネスと人権に関する国際的なイニシアチブであるCHRBが2019年版ベンチマークを公表
日本企業18社を含む200社を評価
2019年12月02日
2019年11月15日、ビジネスと人権に関する国際的なイニシアチブであるCHRB(Corporate Human Rights Benchmark)が2019年版ベンチマークを発表した。このベンチマークは、日本企業18社を含む200社の人権課題への取り組みを6つの分野(A.ガバナンスと方針、B.尊重の組み入れと人権デューデリジェンス、C.救済措置と苦情処理メカニズム、D.実践:企業の人権活動、E.実践:深刻な申し立てへの対応、F.透明性)に渡り評価し、取り組みをスコア化したもので、2017年のパイロット版を皮切りに今回が3度目の公表となる。
2019年版の評価対象企業は世界の時価総額上位企業から業種、地域バランスを加味し選定している。昨年までの農作物、アパレル、資源採取100社に、ICTセクターを加え、企業数も倍増した。
2019年版ベンチマークでは、Key Findingsとして以下8点を挙げている。
1.大多数の企業におけるUNGPs(国連ビジネスと人権に関する指導原則)実践レベルの低さ
2019年の平均スコアは24%。評価対象200社のうち過半数の企業のスコアが20%に満たない。この極端に低いスコアは、UNGPsの実践レベルが非常に低いことの裏付けと言える。
2.人権デューデリジェンスが重要な課題
人権リスクを管理するためには、リスクを特定、評価し、対応するプロセスである人権デューデリジェンスが欠かせない。この分野での平均スコアは21%であり、49%の企業がゼロスコアの状況であり、開示が進んでいない。
3.過去にも評価対象となっている企業の改善
2017年のパイロット版ベンチマーク以降、評価対象となっている企業のスコアには改善がみられる。具体的には2017年の平均スコアは18%だったが、当該企業に絞ると2019年の平均スコアは31%に上昇した。当該企業の75%のスコアが上昇しており、Danoneなどいくつかの企業は2017年と比較し、30ポイント程度スコアを改善した。Adidas、Unilever、Marks & Spencer のようなリーダー企業は70%以上のスコアを維持している
4.改善が見られない企業の存在
複数回の評価を経てもなお、最低限の要素を満たせず、改善が見られない企業も存在する。たとえばMonster Beverages、Starbucks、Costco(3社とも米国企業)は依然として低スコアのままである。2017年から評価されている企業のうち5社中1社は5%以内のスコア上昇にとどまり、変化を促すインセンティブが不十分であることが見てとれる。
5.新規評価対象企業のスコアの低さ
2019年に初めて評価対象になった企業の平均スコアは17%に留まり、まるで2017年のパイロット版ベンチマークに逆戻りしてしまったかのような低水準。このことから、評価が対象企業に改善を促す一方、対象外の企業にとっては開示への関心が高まりにくいといえる。新規評価対象企業100社のうち、50%を超えるスコアを取得した企業はNewmont Goldcorp Corporation、Barrick Gold Corporationの2社のみであり、ゼロスコアを取得した企業も2社存在する。(Youngor、Zhejian Semir、いずれも中国企業)
6.人権侵害の被害者の救済と補償の開示不足
2019年の評価では、約150件の深刻な訴訟が報告された。そのうち被害者が満足いく形での救済措置を提供したケースは3%に留まる。CHRBでは規模、範囲、救済余地の観点でもっとも深刻な訴訟のみを取り上げ、企業の対応を評価している。そのため、評価対象になっている訴訟は限られる。
7.透明性の必要性―特に顕在化したインパクトと企業行動について
開示全般が弱く、特に重要なリスク(強制労働など)の管理や対応策(サプライチェーンのマッピング)について開示が進んでいない。たとえば今年初めて評価対象になった企業で見ると、サプライチェーンのマッピングを開示しているのは10-15%に留まる。
8.ICTセクターの取り組みの遅れ
2019年ベンチマークで初めて評価対象になったが、セクター平均スコアは18%と低く取り組みの遅れが目立つ。このスコアは、他の3セクターの最低スコア(農作物24%、アパレル25%、資源採取29%)を下回る。ICTセクターで50%のスコアを取得した企業は存在せず、3分の2の企業が20%以下のスコアに留まる。業界全体の傾向として、特定の課題の開示は詳細に及ぶが、人権尊重の体系立った取り組みは進んでいない状況が見られた
日本企業は18社のスコアは以下の通り。
企業名 | セクター | 2019年スコア カッコ内は2018年スコア |
ファーストリテイリング | アパレル | 47.1(28) |
イオン | 農作物、アパレル | 28.7(16.7) |
キリンホールディングス | 農作物 | 23 |
アサヒグループホールディングス | 農作物 | 22.1 |
東京エレクトロン | ICT | 19.7 |
キヤノン | ICT | 17.5 |
JXTGホールディングス | 資源採取 | 16.2 |
村田製作所 | ICT | 14.9 |
INPEX | 資源採取 | 14.1 |
日立製作所 | ICT | 13.3 |
任天堂 | ICT | 12.7 |
日本製鉄 | 資源採取 | 11.8 |
セブン&アイホールディングス | 農作物 | 10.3 |
サントリー食品 | 農作物 | 9.8 |
京セラ | ICT | 7.7 |
HOYA | ICT | 7.2 |
ファミリーマート | 農作物 | 4.9 |
キーエンス | ICT | 0.9 |
※リストはスコア順
QUICK ESG研究所 後藤弘子