ESG研究所サステナ委員会を執行側に設置する訳 米欧流の監督側への設置例も

国内上場会社がESG(環境・社会・企業統治)に関する戦略や施策を審議・決定・推進したり、具申・監督したりする「サステナビリティ委員会」を相次いで設置している。日本では同委員会を業務執行担当の経営陣側に置き、社内人材を中心に構成する傾向が見られる。監督を担う取締役会側に置き独立社外取締役を中心に構成する欧米企業と対照的だ。その理由を探った。

QUICKリサーチ本部ESG研究所による日米欧の時価総額上位各20社(金融を除く)の調査で、日本では20社中15社がサステナビリティ委員会を設置しており、このうち11社が執行側だった。一方、米国は同委員会を設置している19社すべて、欧州は16社中15社が取締役側に設置していた。

日本では、2021年6月にコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)に併せて改訂された「投資家と企業の対話ガイドライン」で、サステナビリティ経営の推進体制の整備が盛り込まれた。サステナビリティに関する委員会の設置は「取締役会の下または経営陣の側」とされ、どちらに置くかは各社に委ねられた。

日本で経営陣側に設置する企業が多い理由について、2021年9月に開催された第5回「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」の議事要旨にヒントがある。発言を抜き出してみよう。

「サステナビリティは取締役会の中心的な役割であり、専門分化した機関の設置はなじまない」

「(サステナビリティは)経営戦略の策定の段階で、経営執行レベルで考慮されるべき話である。そういう意味では、経営執行レベルの諮問機関としてサステナビリティの委員会を設置するというのが望ましいと思う」

「取締役会の下に委員会を設けると、委員会任せにするという懸念があるので、取締役会でしっかり議論してほしい」

取締役会の諮問機関として位置づけることに否定的な意見が多い印象を受ける。サステナビリティの課題は取締役会全体で議論したり、執行レベルで取り組んだりすべきだという考え方が背景にあるようだ。サステナビリティの専門的な知見を持つ有識者の「人材プールが小さい」という指摘もあった。

それでは、会社法に規定される指名委員会、監査委員会、報酬委員会を置く「指名委員会等設置会社」はどうなのか。各委員会の委員は3人以上で、過半数は社外取締役でなければならない。サステナビリティ委員会は法定ではなく任意の委員会だが、指名委員会等設置会社が設置した場合の位置付けを調べた。

東京証券取引所の適時開示情報閲覧サービスで昨年6月から今年5月までに「サステナビリティ委員会」(「サステナビリティ推進委員会」「ESG推進委員会」などを含む)の設置を開示した上場会社は合計で約140社あった。日本取締役協会による指名委員会等設置会社リスト(2022年4月12日時点)と照らし合わせると、約140社のうち、三菱マテリアル(5711)とフィデアホールディングス(8713)が指名委員会等設置会社だとわかった。

三菱マテリアルの2022年5月13日付の適時開示によると、「取締役会がサステナビリティに関する取り組みのモニタリングに留まらず、異なる視点からサステナビリティへ取り組む方向性を能動的に検討し、社内に示していくべく、取締役会の下に委員会を設置する」という。

三菱マテリアルは2020年4月に執行役社長を本部長とする「サステナブル経営推進本部」を設置済みだ。今回の委員会の狙いは「サステナビリティへの対応の質を高めること」にある。構成は過半数を独立社外取締役とし、委員長は独立社外取締役が務める。6月28日の株主総会後の取締役会を経て正式に発足した委員会メンバーは、7人の社外取締役と1人の社内取締役の8人だ。

一方、フィデアホールディングスの2021年9月29日付の適時開示によると、取締役会の任意組織として新設するサステナビリティ委員会の目的として「グループのSDGs達成に向けた取り組み及びサステナビリティ経営の状況を評価、検証するとともに、今後のあり方などに関して取締役会に助言すること」を挙げている。

さらに「具体的な業務執行及び各種施策を検討し実行するサステナビリティ推進会議を設置する」といい、執行側にも組織を置く方針を示した。2022年6月に提出した有価証券報告書によると、サステナビリティ委員会は9人で構成し、委員長は社外取締役が務める。委員長を含む3人が社外取締役、2人は非執行取締役だ。

上記2社は取締役会側に置き、社外取締役が主要メンバーという点で「欧米流」だが、執行側にも推進組織を整え「日本流」も取り入れているようだ。委員会をどこに設置したとしても最も重要なのは、実効性を高めることだ。ポイントは委員会に関与する取締役や執行幹部それぞれの役割と責任を明確にすることだろう。

参考
7月17日付日経ヴェリタスでは、QUICKリサーチ本部ESG研究所が実施した調査を基に最新動向を分析・報告する「サステナブル投資 最前線」で、サステナビリティ委員会が取り上げられました。本稿はその関連記事です。

QUICKリサーチ本部プリンシパル ESG研究所エディター 遠藤大義