ESG研究所【ESGブック】GCスコア後継の「リスク・スコア」導入 
サステナビリティ2.0に対応

ESGブック(旧アラベスクS-Ray)は11月21日、国連グローバル・コンパクト(GC)に基づいて企業活動を評価する「GCスコア」の後継となる「リスク・スコア」の導入を発表した。サステナビリティ経営は次の段階に移行したと想定し、「サステナビリティ2.0」におけるサステナビリティ経営のリスクを測るスコアとして開発した。企業のサステナビリティ経営に影響を及ぼす財務、戦略、業務、コンプライアンス、そしてレピュテーション等の多面的なリスクを分析する。

企業の経営に持続可能性の考え方が浸透してきており、サステナビリティに責任を持つ企業の業績は堅調で、企業価値も増加傾向であることが多いように感じる。また、このような責任ある企業の経営破綻に陥るケースも少ないように思う。ESGブックの「レポーティング・エクスチェンジ」で調べたところ、世界の50の経済大国・地域において企業活動に関する開示などの規制は今世紀に730以上も改定されている。リスク・スコアは、最新の規制を踏まえ、サステナビリティ経営に則した企業活動をより的確に評価するうえで役立つ。今回は、このリスク・スコアについて紹介したい。

リスク・スコアにおいても国連グローバル・コンパクトの原則は重要な要素となっている。スコア名からグローバル・コンパクトの「GC」は外れたが、スコアリングはグローバル・コンパクトの10原則がベースとなっている。下の(図)で示される「Total Score」がリスク・スコアである。このリスク・スコアは4つの分野で構成されており、それらを「ピラー(柱)・スコア」と称している。4つのピラー・スコアは、人権(Human Rights)、労働(Labour)、環境(Environment)、腐敗防止(Anti-corruption)である。

 

図:リスク・スコアのスコアリング体系

 

この4つのピラー・スコアには、10原則が紐づく形になる。人権では、人権の保護を支持・尊重(Human Rights Support)と自らの人権侵害の非加担(Human Rights Non-complicity)の2原則である。労働では、結社の自由(Freedom of Association)、強制労働(Forced Labour)の撤廃、児童労働(Child Labour)の廃止、雇用と職業における差別(Labour Discrimination)撤廃の4原則。環境は、環境の予防原則的アプローチ(Environmental Precaution)、環境責任(Environmental Responsibility)、環境に優しい技術開発(Environmental Technology)の3原則、腐敗防止はあらゆる形態の腐敗の防止の取り組みの1原則となっている。

これらの10原則が「原則スコア」となり、各ピラー・スコアを構成する。原則スコアは、ESGブックが収集している各企業のサステナビリティ関連の開示情報を約200の指標に分類し、算出する。リスク・スコア(Total Score)、4つのピラー・スコア、10の原則スコアは0~100の範囲で評価され、スコアが高いほど優れていることを示す。スコアは随時、新たな情報を組み入れて更新される。このため、企業の経年変化を追ったり、他の企業と比較したりするのに役立つ。

最後に、「Total Score」について説明を加えたい。Total Scoreであるリスク・スコアには「リスク・スコア・コア」と「リスク・スコア・プラス」の2種類がある。ESGブックやアラベスクS-Rayからご存知の読者は馴染みのあるスコアリング手法となっている、企業の開示情報をベースにしたスコア(リスク・スコア・コア)にニュースやNGO(非政府組織)の情報を考慮したスコア(リスク・スコア・プラス)を提供するのがESGブックのスコアの大きな特徴であり、今回のリスク・スコアでも同様のスコアリングを行っている。また、今回のリスク・スコア・プラスでは、10の原則スコアを算出し、各原則スコアの最下位2%の企業については、原則を順守するよう注意喚起を促すためのフラグを付与している。

 

図:リスク・スコア・プラスの日経平均構成上位10社

 

リスク・スコアの正式リリース前の11月1日時点であるが、日経平均株価の構成銘柄におけるリスク・スコア・プラスの上位10企業をまとめたのが、上の(表)だ。気候変動や人権、地政学リスクなど、責任ある企業行動は企業を評価する上で益々重要な役割となるであろう。本スコアが一助になれば幸いである。

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)