ESG研究所【ESGブック】 「パリ、テキサス」で読む米気候変動対策
2024年11月27日
今回は筆者の元同僚で、現在カナダ最大級の年金運用会社「PSPインベストメンツ」でサステナビリティ部門を統括するハーマン・ブリル氏の考えを紹介する。彼が「パリ」と「テキサス」という言葉を組み合わせ、トランプ大統領就任後のアメリカの気候変動対応についてリンクトインに投稿した内容を、本人の承諾を得てまとめた。
昨年、役所広司さんが主演し、世界的にヒットした「PERFECT DAYS」は、カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞し、アカデミー国際長編映画賞にも輝いた。この映画を監督したヴィム・ヴェンダース氏が約40年前に手掛けた「パリ、テキサス(Paris, Texas)」は、カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルムドールを受賞した。当時人気のあったナスターシャ・キンスキーさんが主演を務め、小学生か中学生だった筆者も映画館で観た記憶がある。
彼の投稿のパリ、テキサスはテキサス州パリスのことではなく、同じスペルのフランスのパリと、米国のテキサス州のことを指す。気候変動とパリと言えば、2015年に開催された第21回国連気候変動枠組み条約契約国会議(COP21)で採択された、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」が思い浮かぶ。以下は投稿のポイントだ。
トランプ次期大統領は、来年1月の米国大統領就任後、再び「パリ協定」から米国を離脱させると公約している。このことは、気候変動対策が再び後退する可能性を示唆している。それにもかかわらず、「私たちにはパリとテキサスが常にある」と言うことができる。このカサブランカ風の言い回しのひねりは、気候変動対策の世界的な進展と、再生可能エネルギーにおけるテキサス州のリーダーシップを象徴している。
パリとテキサスが常にある:
- パリ協定の耐性: 前回のトランプ政権で米国がパリ協定を離脱したが、米国に追随して離脱する国は現れず、世界的な気候変動対策の取り組みは継続された。
- 太陽光発電のリーダー: 米国において、テキサス州は実用規模の太陽光発電でカリフォルニア州を上回り、全米一の州である。
- 風力発電の巨人: テキサス州は風力発電の生産で米国をリードする。
- グリッドの耐性: 太陽光発電と電池は、近年発生する熱波の期間、テキサス州の記録的な電力需要を満たすのに貢献した。
- 急速な成長: テキサス州は、今後5年間で5万MW以上の太陽光発電容量を増量することが予測される。
なぜ再生可能エネルギーが重要なのか:
- 経済的推進力: 再生可能エネルギーはコスト競争力を持つようになり、米連邦政府の政策に左右されず、大規模な投資を誘引している。
- 雇用創出: テキサス州で急成長する再生可能エネルギー産業は、すでに何千人もの雇用を生み出している。
- エネルギーの自立: 再生可能エネルギーは、政治的な分断を超え、自給自足というテキサス州の目標と一致している。
ブリル氏の投稿の要点:
テキサス州における再生可能エネルギーの急成長は、米連邦政府の政策が停滞した場合でも、同州の経済力とこれまでの取り組みにより、気候変動対策を継続して推進できることを示している。
トランプ氏が再び大統領に就任し、パリ協定離脱など過去の政策が再現される可能性がある一方で、この8年間で増加した自然災害や地政学的リスクへの懸念から、気候変動対策の流れは揺るがないだろう。また、トランプ氏が圧勝したテキサス州が、再生可能エネルギー分野でカリフォルニア州を追い越しつつある事実は、多くの州民や企業が気候対策を重要視していることを示している。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)