ESG研究所【ESGブック】鉄鋼業界のサステナビリティ分析
日本製鉄、USスチール、世界の主要会社を比較
2024年09月26日
日本を代表する鉄鋼会社である日本製鉄による、米国を代表する鉄鋼会社USスチールの買収計画は、単なる民間企業同士の買収案件にとどまらず、日米の政治問題へと発展している。報道によると、米鉄鋼業界の労働組合は日本製鉄による買収に反対している。被買収企業側の労働組合が反対している場合、買収後の従業員に対する対応が非常に重要な課題である。今回はこうした点を踏まえ、日本製鉄やUSスチールを含む世界の主要な鉄鋼会社10社のサステナビリティ・パフォーマンスについて考察する。
10社のサステナビリティ・パフォーマンスを比較すると、SASB(サステナビリティ会計基準審議会)スタンダードの5領域をベースに算出している「ディメンションスコア・プラス(DP)」すべてのスコアで鉄鋼業界平均を上回っている企業がある。特にポスコ、タタ・スチール、現代製鉄、JFEホールディングスが優れている。
10社の中でポスコは、サステナビリティ全体のパフォーマンスを示す「ESGパフォーマンススコア・プラス(EPSP)」において最高スコアを獲得しており、DPの「社会資本」と「人的資本」でも最高スコアを記録している。その他のスコアも業界平均を上回っているため、現時点では最もサステナビリティのパフォーマンスが優れている鉄鋼会社であると言える。
それでは、日本製鉄とUSスチールについて見ていく。両社ともにEPSPは業界平均を上回っており、スコアは同水準である。日本製鉄はDPの「リーダーシップとガバナンス」が48.20と業界平均を下回っているが、その他の4つのDPは業界平均を大きく上回っている。
一方、USスチールは、DPの「社会資本」が44.58、「環境」は50.84であり、いずれも業界平均を下回るが、他の3つのスコアは業界平均を上回っており、特に「リーダーシップとガバナンス」は最高スコアを記録している。この分野においては、日本製鉄がUSスチールを買収することになれば、改善が期待される。
注目すべき点としては、中国の鉄鋼会社2社のサステナビリティのパフォーマンスが業界平均を大幅に下回っていることである。中国からは3社が主要10社に入っており、そのうち宝山鋼鉄は日本製鉄やUSスチールと遜色ないパフォーマンスを示している。宝山鋼鉄のEPSPは54.89と、日米の2社よりも低いものの、いくつかのDPでは同社が上回るケースも見られる。
一方、河北鋼鉄集団と江蘇沙鋼集団は、EPSPおよびDPの全スコアで業界平均を下回っている。こうした二極化が鉄鋼業界に限られるのか、中国企業全体に見られる傾向なのかについては、今後も注視が必要である。
本寄稿を執筆している9月25日時点では、日本では自由民主党の総裁選挙が進行中であり、来月早々には新首相が就任する予定である。一方、米国では11月初めに次期大統領が選出される。このような状況下では、本来は企業間で解決されるべき買収案件であっても、労働者や地域社会など多くのステークホルダーが関与する課題において、政治的な影響を受けやすい。本件に関しては、USスチール側の労働組合が納得できる合意が見出されることが期待される。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)