ESG研究所【ESGブック】経営破綻した米金融機関のESGスコアを分析

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3月に入り米国の地銀数行が経営破綻したうえ、欧州に飛び火してクレディ・スイス・グループが経営危機に陥るなど、金融危機の可能性が出始めている。今回は、これらの金融機関がサステナビリティの観点からどう評価されてきたのか、ESGブックのスコアで見ていきたい。

米国の金融持ち株会社シルバーゲート・キャピタルが3月8日、傘下銀行を自主的に清算すると発表した。10日にSVBフィナンシャル・グループ傘下でカリフォルニア州のシリコンバレーバンク(SVB)が、12日にはニューヨークが地盤のシグネチャー・バンクが相次いで経営破綻した。危機が欧州に波及し、19日にはUBSがクレディ・スイスを救済合併することで合意したと発表した。

経営破綻した米国の地銀はベンチャービジネスや新興産業の成長へ融資するなど、銀行としての役割を担っていたように思われる。サステナビリティに優れた企業に投資するファンドの中には、これらの銀行や持ち株会社の株式を組み入れていたところもあったようだ。ESGブックではこれらの金融機関はどのように評価されていたのであろうか。

上の表のように、これら4金融機関ともにESGスコア(満点は100)は50前後で、サステナブルな評価が低いという判断はできない。中でも、米国の3金融機関は50を上回っており、世界の銀行の中でも平均以上の評価である。クレディ・スイスは50を下回っているものの、5ポイント程度のマイナスで推移していた。

注目したいのは、約1年間でのサブスコア(満点は100)の変化率だ。4金融機関ともに、この1年間においてガバナンスのサブスコアがマイナスとなった。ここ数年、経営の透明性や企業倫理の評価が低いことから、ガバナンスのサブスコアが低く推移していたクレディ・スイスを除くと、米国の3機関は5%以上の低下を示している。

シルバーゲート・キャピタルは14%の大幅な低下である。シルバーゲートは昨年秋頃からガバナンスのサブスコアが下がり始め、今年に入ってからその下落率が大きくなった。シリコンバレーバンクの親会社のSVBフィナンシャルと、シグネチャー・バンクも同じような推移を辿っている。

銀行は経営の透明性、健全性、そして企業倫理が重要な要素であり、ガバナンスはサステナビリティを推進していく上で最も重視しなければならない課題である。つまり、これらの3機関は、直近の1年、特にこの半年前からガバナンス・サブスコアの低下が現れはじめ、今年に入るとその傾向が強まり、経営危機への合図となっていたように思える。

米国で地銀の経営危機が今後更に広がって行くのか、現時点では見通せないが、少なくともこれら3機関についてはガバナンス・サブスコアが数カ月前から低下を始めたという共通点が見られた。企業のサステナビリティに関する公開情報を中心にした評価では平均以上のスコアを得ながらも、経営の実態との乖離が生まれてしまったようだ。

ESGスコアはセクター別にマテリアリティのウエートを設定しており、四半期ごとにウエートを更新している。地銀セクターのガバナンス・サブスコアのウエートは48.8%と環境サブスコア、社会サブスコアよりも高い数値である。これは情報保護・管理が重要な情報通信セクターやソフトウエアセクターに次ぐ数値である。地域の住民や地元企業の金融サービスの担い手としてサステナブルな地銀の経営に求められることは企業倫理や透明性の高い経営監督体制なのだ。

もう一つ指摘したいのは、各行の開示している非財務情報だけでは経営の実態を把握できなかったとみられることだ。数カ月前のガバナンス・サブスコアの低下は日々のニュース等の情報によって評価された結果である。見せかけだけで実態が伴わない「グリーンウォッシング」の問題が増えつつある中、経営の実態を反映するタイムリーなサステナビリティ評価の重要性が高まると思われる。

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)