ESG研究所【ESGブック】米ナイキ、五輪開幕でもブランドに翳りか
2024年07月30日
夏季五輪真っ只中、ひと月ほど前に株価急落がニュースとなった米スポーツ用品大手ナイキについて取り上げていきたい。株価急落は6月27日に発表した決算で減収だったことが背景にある。「HOKA(ホカ)」や「On(オン)」などの新興ブランドに勢いが出ていることが挙げられている。今回はナイキをサステナビリティの面から見てみたい。
ナイキの株価は年初を起点とすると7月26日時点で約30%下落している。この下落の大部分は同年6月28日の急落によるもので、6月27日の株価94.19ドルが翌日には75.37ドルと約20%の急落となった。その後も株価低迷が続き、7月26日終値は72.56ドルだった。
ナイキの4月12日の発表(注)によると、パリ・オリンピックパラリンピックに出場する各国の団体または個人競技の100を超える連盟とパートナーシップを提携している。オリンピック・パラリンピックの中継映像等で同社のロゴの入ったユニフォームを着ている選手を多く見かけることは間違いないであろう。しかし、パリ五輪開幕後も同社の株価は冴えない状況である。
それでは、同社のサステナビリティのパフォーマンスはどうであろうか。年初(1月2日、日本企業の株価は1月4日)と7月26日で同業他社と比べてみよう。
ナイキのサステナビリティのパフォーマンスをESGブックの「ESGパフォーマンススコア・プラス(EPSP)」でみると、マイナス1.91とスコアは低下した。同期間の株価とサステナビリティ・パフォーマンスのいずれも下げた同業のブランド企業は、米国のアンダーアーマー、中国の新興人気スポーツブランドの安踏体育用品(アンタ・スポーツ・プロダクツ)、そしてノースフェースやシュプリームなどのブランドを抱える米国のVFコーポレーションであった。
一方、株価とサステナビリティのパフォーマンスがともに上昇した企業はドイツのアディダスと日本のアシックスだ。アシックスが好調であることはニュース等でも報じられていたが、サステナビリティのパフォーマンスも上昇していた。ESPSをサブスコア段階までみてみると、SASB(サステナビリティ会計基準審議会)の5つの領域に基づいてスコアリングしているディメンションスコア(環境、社会資本、人的資本、ビジネスモデルとイノベーション、リーダーシップとガバナンス)では、社会資本を除く4つのスコアが上昇していた。
本稿の主役であるナイキの5領域のスコアをみると、ビジネスモデルとイノベーションを除く4つのディメンションスコアが下げていた。同社のサステナビリティの開示の水準は高く維持されているが、「人権と地域社会の繋がり」(社会資本)や「労働慣行」(人的資本)、「法規制環境の管理」(リーダーシップとガバナンス)などのサステナビリティの課題カテゴリーにおけるニュース・インパクトでマイナスの影響が生じてしまっている。これらのカテゴリーのステークホルダーとの関係改善が求められているのではないか。
最後に、冒頭で記した新興ブランドのHOKAを持つデッカーズ・アウトドアをみていきたい。同期間の同社株価は上昇した一方で、サステナビリティのパフォーマンスは低下した。表で取り上げた10社の中でESPS上位3社に入り、サステナビリティのパフォーマンスは優れた企業と考えられるので、今後の挽回に期待したい。
(注)https://about.nike.com/en/newsroom/collections/2024-national-and-federation-kits参照
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)