ESG研究所【ESGブック】研究開発を利益につなげる企業は持続可能性に優れているか
2023年12月27日
「サステナブルな会社ってどういう会社?」という疑問を持つ人は多いと思う。この分野に長く関わっている筆者もその一人である。皆さんが知っているブランド企業なのか、創業何十年、何百年の長寿企業なのか、あるいは報酬の高い企業、高収益の企業などの財務的に強い企業なのか、さまざまな見方がある。今回は、研究開発を利益拡大につなげることが持続的な成長を促す可能性を高めるのではないか、との仮説のもと、研究開発に力を入れている企業のサステナビリティのパフォーマンスをみていきたい。
12月25日付の日本経済新聞朝刊13面「Bizランキング」に研究開発を利益につなげる企業のランキングが掲載された。このランキングの上位10社のESGブックによる「ESGパフォーマンス・スコア・プラス(EPSプラス)」とEPSプラスのサブスコアにあたる5つの領域(ディメンション)のスコアによってサステナビリティ・パフォーマンスを比較した。
この5つの領域はSASB(サステナビリティ会計基準審議会)のSASBスタンダードの開示項目の領域に基づいてスコアリングしている。さらに、国連グローバルコンパクトの10原則に基づいて企業行動を評価する「リスクスコア・プラス(リスク・プラス)」のスコアも掲載し、各社の企業行動のリスク対応をみていきたい。スコアの点数はいずれも0~100の範囲でスコアが高いほど優れており、平均が50となるように調整されている。平均はESGブックがスコアの対象とする世界約9000の上場企業の平均値である。結果は(表1)のようになった。
10社平均でみると、「EPSプラス」は59.22、「リスク・プラス」は60.89といずれも優れたスコアとなった。やはり、研究開発を利益につなげる日本企業はサステナビリティのパフォーマンスにおいても、世界の平均を約10ポイント上回る優れた企業と考えられる。
また、5つのディメンションの中で、研究開発投資効率に関係していると考えられる「ビジネスモデルとイノベーション」では、10社平均のスコアは57.96と50を上回っており、信越化学工業(4063)、東京エレクトロン(8035)、日本製鉄(5401)、村田製作所(6981)、明治ホールディングス(2269)は60を上回った。このように10社を全体で見ると、世界的にみてもサステナビリティのパフォーマンスが優れた企業とみなされるが、唯一気になったのは2位のHOYA(7741)である。
ランキング首位の信越化学工業は研究開発投資効率が8.7倍、2位のHOYAは6.7倍と10社平均の4.2倍を大きく上回っている。信越化学工業は「EPSプラス」が64.53、「リスク・プラス」が65.56と10社平均を上回っているのに対し、HOYAは「EPSプラス」が47.43、「リスク・プラス」は49.25と10社平均を下回っているばかりか、世界全体の平均である50を下回っている。
HOYAのサステナビリティのパフォーマンスはディメンションのスコアも低調となっており、世界平均の50を上回っている人的資本のスコアも58.24と、上位10社の平均の65.13に比べて見劣りしている。HOYAはサステナビリティのパフォーマンスにもっと力を入れることができるのではないか。
そこで、HOYAのサステナビリティの状況を詳しくみていく。5つのディメンションのスコアは、26のカテゴリースコアで構成されている。SASBは産業分類毎に重要なカテゴリーを公表しており、HOYAの属する産業においては(表2)の6つが重要なカテゴリーとされている。
カテゴリースコアのうち「サプライチェーン管理」と「製品の品質と安全性」は50を大きく上回り、セクター(ヘルス・テクノロジー)内においても83.74%、96.57%と上位の位置付けで、特に「製品の品質と安全性」は上位5%以内と最良のスコアとなっている。一方、「製品設計とライフサイクル管理」、「アクセスとアフォーダビリティ」、「販売慣行と製品のラベリング」は50を下回り、セクター内のランクも一桁台となっており、改善の余地が大きい。
HOYAのサステナビリティの情報開示の水準は95ポイント(0~100の範囲)と優れた開示を行なっているので、開示方法などを少し改善すれば、スコアは向上するのではないかと思う。カテゴリー内の各評価指標についてはESGブックのプラットフォームでチェックできるので、ぜひご確認頂きたい。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)