ESG研究所【ESGブック】温室効果ガス排出量開示の潮流
カリフォルニア州で義務付け
2023年10月31日
欧米の温室効果ガス(GHG)排出量の開示に関する規制は厳格化が進んでいる。日本企業と、投融資する機関投資家や金融機関にも影響を及ぼす代表的な規制は米証券取引委員会(SEC)の気候関連開示規則と、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)である。今回はESGブック(旧アラベスS-Ray)のイザベル・ヴェルケス(Isabel Verkes)のリサーチレポート“Climate Disclosure Laws with Increasingly Long Arms”をベースに現状を見ていきたい。
SECは昨年、企業に気候関連の情報を開示する気候関連開示の規則案を提出したが、ESGの投資効果や情報公開に関連するコストに対する「反ESG」の高まりを受け、本規則案が成立するのか不透明な状況にある。そのような中、米カリフォルニア州による気候情報開示法案が同州議会で可決した。このカリフォルニア州の気候情報開示法は上場企業を対象にした前述のSEC規則案と異なり、非上場企業も対象となり、2025会計年度の排出量等の気候関連情報を26年に開示することからスタートする。
米国の国内総生産(GDP)の約15%を占めるカリフォルニアのGDPは世界第4位か5位の国に相当する経済規模だ。同州の法律の影響は1自治体にとどまらないことがわかる。おそらく同州で活動する1万社超の企業が対象となり、その半数の5000社は「気候関連企業データ説明責任法(SB 253)」によりGHG排出量の開示と、「温室効果ガス・気候関連財務リスク(SB 261)」法により気候リスクの説明をしなければならない。ヴェルケス氏のレポートでは図2のように概要をまとめている。
カリフォルニア州は同法の施行により、企業にどのような負担が発生するのかのモニタリング調査を行う予定だ。この調査はSECの気候関連開示規則の成立に向けたサポート要因になるだろう。さらに、同様の法案の成立に昨年失敗したニューヨーク州でも再び法制化を目指す動きが出ている。
一進一退の米国に比べると、気候関連情報を含む非財務情報の開示に向けた動きが活発な欧州では、早ければ2025年からCSRDがスタートする予定だ。図1で示したようにCSRDは上場および非上場企業が対象となっている。さらに、欧州の本社を置く企業だけでなく、欧州に支社や支店を持つ欧州以外の企業も対象である。
ゴールドマンサックスの推計では、「MSCI ACWI (MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)」を構成する企業の47%、S&P500(スタンダード・アンド・プアーズ500種指数)を構成する企業の67%がCSRDの対象となるとしている。MSCI ACWIには日本企業も多く入っていることから、CSRD対応が急がれる。
最後に、GHG排出量の情報開示に関してESGブックのプラットフォームで新たな機能が追加されたので紹介したい。今回、「Climate Analytics」(気候分析)という機能が加わった。この機能では、各社の開示情報から排出量データを収集し、スコープ1、2、3、さらにスコープ3の各カテゴリーの排出量を分かりやすく表示している。図3は英シェル社(Shell Plc)のGHG排出量データ(2022年度)だ。
英シェル社の排出量推移(スコープ1、2、3)と炭素強度(対売上および対時価総額)の推移やESGブックによる「気候スコア」も確認できる(図4)。
英シェル社の排出量開示は過去の時期も含め、高い透明性を維持していることがわかる。特にスコープ3については、気候関連の情報開示の規制が厳しくなってきた2020年以降の排出量が増加している。販売した製品の使用による「カテゴリー11」の排出量の情報収集の対象が広がったことがうかがえる。
英シェル社の「Disclosure」(開示)のタブにはこれまでESGブックの収集した排出量データが年度ごとに確認できる。2019年と20年の排出量のデータでは、カテゴリー11の排出量が19年の5億7600万トンから20年には10億5430万トンと約2倍に増えている。このように厳格化される情報開示に対応するために情報収集の精度が高まった結果であろう。ESGブックのプラットフォームでは、世界の主要企業の非財務情報を確認できるので、ぜひご利用頂きたい。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)