ESG研究所【ESGブック】未上場企業のサステナビリティ開示
2023年09月26日
本寄稿では未上場企業のサステナビリティ情報開示について最近の動向を記したい。これまでサステナビリティやESGは上場企業や上場企業に投融資する金融機関、上場企業と取引をする主要なサプライヤー企業が中心となって考えられてきた。しかし、サプライチェーンでは一部を除けば、多くの企業は上場しておらず、特定の国や地域で活動するローカル企業や中小企業である。深刻化する気候変動問題で、温室効果ガス排出量のスコープ3の計測にはこのような企業の排出量も必要になってきている。
この流れは、E(環境)以外の分野でも広がってきている。欧州では上場企業を問わず、同地域で経済活動を行う企業に対してS(社会)やG(ガバナンス)での情報開示を求める動きが本格化している。
それでは、未上場企業や中小企業向けのサステナビリティ情報開示についてみていきたい。ESGブックのプラットフォームには、情報開示フレームワークが複数掲載されている。日本企業の多くが取り組んでいるGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)やSASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)のフレームワークはもちろんのこと、未上場企業や中小企業向けも複数ある。国際金融公社(IFC)が新興国の企業向けにサステナビリティ情報の開示を促しているフレームワークや世界のプライベート・エクイティ・ファンドが投資先の未上場企業にサステナビリティ情報の開示を促すフレームワークなどがある。
最近追加されたものに、アクセンチュアが設定した中小企業向けフレームワークがある。これは、シンガポール企業庁(Enterprise Singapore)が同国の中小企業に向けにサステナビリティを経営に取り込みながら、事業成長を促すプログラム(https://www.accenture.com/sg-en/services/public-service/foundation-operationalising-sustainability-sme)において使われている。
同プログラムは3部構成となっており、1部で組織におけるサステナビリティの重要性がテーマとなり、2部では、サステナビリティを事業の戦略に活かすロードマップ策定がテーマで、そして最終の3部では、サステナビリティを活かした経営の情報開示やそのプロセスをテーマとして取り上げられている。この3部でアクセンチュアの中小企業向けフレームワークが使用されている。
アクセンチュアのフレームワークは全部で55の設問で構成されており、コア指標、追加指標、そして算出指標となっている。コア指標と追加指標は一般、環境、社会、ガバナンスに分かれており、算出指標は環境のみになっている。詳細はぜひESGブックのプラットフォームにアクセスして頂きたいと思うが、簡単にいくつかの指標について言及したい。
コア指標では、中小企業向けといえども、温室効果ガス排出量に関する設問が細かく出されている。各スコープの排出量の算出及び開示を行っているかという設問から、エネルギー使用についてはガソリンや液体天然ガス等の個別の燃料の使用量が問われている。追加指標は社会に関して細かい設問が多くなっており、人権に関する研修の有無や差別行為による問題発生の有無等が問われている。
日本の未上場企業においても各社が持続可能な地球社会を発展させていくには、企業単位でサステナビリティに対する認識と責任、そして透明性の高い経営を目指していくことが重要であろう。さらに各企業の活動を多くのステークホルダーが確認していけるような仕組みが不可欠だ。ESGブックは、IFCやプライベート・エクイティ・ファンド業界、そしてシンガポールで進められているように、未上場企業のサステナビリティ情報の開示を日本でも普及できるよう貢献していきたい。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)