ESG研究所【ESGブック】日本の自動車産業の行方を占う経営統合になるのか?

【ESGブック】日本の自動車産業の行方を占う経営統合になるのか?

本田技研工業(以下、ホンダ)と日産自動車(以下、日産)は12月23日、経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結したと発表した。2024年を締めくくるにあたり、このニュースを取り上げたい。戦略的な事業展開についての詳細な考察は経営戦略の専門家に委ね、本稿ではサステナビリティの観点から、両社の現状と今後の展開を考察する。

 

 

表1は、世界の自動車メーカーについて販売台数を基準に上位10社(グループ)を取り上げ、時価総額とサステナビリティのパフォーマンスを示すESGスコアを加えたものである。販売台数はグループ全体で集計されているが、時価総額とESGスコアはそれぞれの企業単位で算出されている。本表では、各グループを代表するメーカーを例に挙げている。

日本経済新聞によると、ホンダと日産の販売台数は、それぞれ世界7位と8位である。さらに、日産が筆頭株主である三菱自動車(以下、三菱自)の販売台数を合算すると、合計813万台となる。これにより、販売台数で世界第3位となる自動車グループ(以下、新3位グループ)が誕生することになる。

次に、CompaniesMarketcap.comの主要自動車メーカーの時価総額ランキング”Largest automakers by market capitalization” (https://companiesmarketcap.com/automakers/largest-automakers-by-market-cap/)で見ると、ホンダは約370億ドルで自動車業界全体の15位、日産は約100億ドルで33位、三菱自は約40億ドルで43位に位置している。これらを単純に合算した場合、新3位グループの時価総額は約510億ドルとなり、これは世界8位のポルシェ(約559億ドル)と世界9位のBMW(約501億ドル)との間に位置し、時価総額では世界9位に上昇することになる。

サステナビリティのパフォーマンスについて考察すると、予想に反し、ESGスコアは伝統的な自動車会社が健闘している。販売台数上位10社の中では、ゼネラル・モーターズ(GM)が68.23と最も高く、自動車業界全体で4位である。続いて、フィアットやクライスラーなどを統合してきたステランティスが66.45で7位、日産が65.54で9位に位置している。一方、ホンダは61.26で21位、三菱自は66.14で日産を上回り8位である。これら3社の平均スコアは64.31であり、自動車業界全体の11位に相当する。

つまり、ホンダ、日産、三菱自の新3位グループは、販売台数で世界3位、時価総額で世界9位、サステナビリティでは世界11位となる。3社が統合することで、販売台数や時価総額が増えるだけでなく、ホンダはサステナビリティの水準を引き上げる効果が期待される。

最後に、角度を変えてホンダと日産の経営統合を考察する。台湾のホンハイ精密工業(以下、ホンハイ)が日産の買収を検討しているとの報道があった。一方、ホンダは2022年にソニーグループ(以下、ソニー)とソニー・ホンダモビリティを設立し、同社初の電気自動車を25年に販売する見込みである。

 

 

表2は、ホンハイとソニーの時価総額とESGスコアである。CompaniesMarketcap.comの主要企業の時価総額ランキング”Largest companies by market capitalization” (https://companiesmarketcap.com/)によると、ホンハイの時価総額は日産の約8倍であるが、ESGスコアはほぼ同じである。ソニーの時価総額はホンダの約3倍、ESGスコアは10ポイント以上上回っている。時価総額に基づくと、新3位グループの時価総額は約510億ドルで、ホンハイ、ソニーの時価総額を下回る。サステナビリティのパフォーマンスにおいても、新3位グループは64.31とホンハイ、ソニーのESGスコアを下回っている。

新3位グループの結成は、3社の立場を改善する有効な選択肢となる可能性が高い。しかし、電気自動車や自動運転への顧客期待が高まる中、日産とホンハイ、ホンダとソニーのコラボレーションがもたらす価値への期待はさらに大きい。これらの動向が、業界全体にどのような変革をもたらすのか注目される。

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)