ESG研究所【ESGブック】日本と世界の大手製薬のサステナビリティに関するリスク耐性

【ESGブック】日本と世界の大手製薬のサステナビリティに関するリスク耐性

前回、最近の株式市場を牽引する企業として日本株「七人の侍」と米国の「壮大な7銘柄」のサステナビリティのパフォーマンスを取り上げた。これからのAI(人工知能)時代の発展を見据え、日米ともに情報通信、半導体の企業が中心であった。今回は、AI等の活用で大きな変化を迎えている医療関連の企業についてサステナビリティに関するリスクの耐性の視点から見ていきたい。

製薬業界はAIの活用により研究開発や治験にかかるコストを抑制し、時間の短縮が可能となる。今回は前回と異なり、リスクの観点で分析するため、ESGブックの「リスク・スコア」で日本及びグローバル(除く日本)の上位10社を見ていくことにする。

リスク・スコアは国連グローバル・コンパクトの10原則を指標として企業行動を評価するスコアである。各原則に即した企業行動をとり、適切な情報公開をしているのかが問われる。スコアが高いほど、各原則に即した行動をとっている、つまり、企業行動においてリスクが低いことを示している。

スコアの後にプラスが付いているのは、企業の開示情報に加えて、各企業がメディアやNGO(非政府組織)で取り上げられているニュース等の情報を考慮していることを示し、「リスク・スコア・プラス」(以下、RSP)と称している。ニュース情報にはネガティブな事柄ばかりではなく、ポジティブな事柄も含まれている。スコアは0から100で表示され、50が平均となるように調整されている。

表1に日本の製薬会社の上位10社を掲載した。1位は第一三共でRSPは69.32と上位10社の平均58.93を10ポイント上回っている。1位と2位のエーザイ(60.40)の差が9ポイントほど離れているが、2位から5位の武田薬品工業(59.03)まで1ポイント程度の差で4社が並んでいる。

RSPの横に「ピラー・スコア・プラス」がある。「ピラー・スコア」は国連グローバル・コンパクトの10原則が人権、労働、環境、腐敗防止の4つの柱(ピラー)に分かれており、それぞれのピラーのスコアを「サブスコア」として算出している。第一三共の場合、労働(79.40)と環境(74.59)が非常に高く、上位10社の中でもトップである。エーザイと大塚ホールディングスは労働(エーザイ75.79、大塚ホールディングス71.58)、武田薬品工業は環境(72.85)がそれぞれ70を上回っている。

上位10社の平均スコアで気になる点は、腐敗防止のピラー・スコア・プラスが49.55と50を下回っていることだ。エーザイ(49.02)、大塚ホールディングス(49.41)、小野薬品工業(46.96)、中外製薬(42.28)、日本新薬(37.93)と5社が50を下回っている。中でも日本新薬は40を下回っている。腐敗防止の評価を測定する指標の一つにロビー活動や政治への関与に関する会社の方針の有無があり、この指標が「NO(無)」となっているなど、いくつかの指標で方針や対策を講じていないことが響いているようだ。

表2は日本を除くグローバルの製薬会社上位10社である。表1に比べて総じてRSPが高い。平均は72.27と、日本の上位10社の平均(58.93)に比べて10ポイント以上高い。ただ、日本企業1位の第一三共はグローバルなランキングでも9位のアムジェン(69.24)を上回っており、グローバルのランキングでは9位に入る高スコアである。

グローバルな製薬会社の1位はドイツのメルクで、78.33と非常に優れた企業行動をとっているとみられる。ピラー・スコア・プラスは労働(84.39)と環境(88.53)が80を上回っている。上位10社平均の4つのピラー・スコア・プラスはすべて60以上で、適切な企業行動をとっていることがわかる。

表2の最後の行にESGブックの対象となっている世界の大手製薬会社341社(含む日本の大手製薬会社)の平均スコアを示している。RSPは45.23と50を下回っており、ピラー・スコア・プラスも人権、労働、環境は50を下回っている。一方、腐敗防止は51.69と、表1の日本の製薬会社上位10社の平均(49.55)を上回っている。他の業界に比べて、製薬業界は国内外の行政との関わりが高いとみられ、情報の透明性と積極的な開示が期待される業界である。日本の製薬会社の腐敗防止対応を、関心を持ってみていきたい。

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)