ESG研究所【ESGブック】内部通報、問われる支援機能の評価
日経平均構成銘柄を分析
2024年04月24日
4月20日付の日本経済新聞朝刊に「内部通報 進まぬ活用」という記事が掲載された。昨今のENEOSホールディングスやダイハツ工業の不祥事が内部通報制度を活用した事例として取り上げられていた。今回は日経平均株価を構成する企業(2024年3月29日時点)の内部通報制度に関する開示状況を確認したい。
ESGブックでは内部通報(Whistleblowing)はESGのG(ガバナンス)、SASBの5つのディメンションではリーダーシップ&ガバナンスの「経営倫理」の評価指標に含まれている。内部通報については2つの指標があり、「内部通報方針の有無」と「独立した外部の機密保持の内部告発ホットライン及びサポート対応へのアクセスの有無」(内部通報支援機能)について評価をしている。
特に2つ目の指標の内部通報支援機能は、内部告発のホットラインを設けているという記載だけではなく、具体的なホットラインの電話番号やウェブサイトの記載が必要となる。さらに、具体的なホットラインのアクセス表示が開示されている場合でも、ホットラインの対象が会社の従業員や社内のステークホルダーに限られる場合と外部のステークホルダーを含める場合を区別して評価している。日経平均株価を構成する225社について、この2つ目の指標について評価をしたのが下表である。
1つ目の指標の内部通報方針については、ほぼ全ての企業が「有」の評価であったが、表で示した2つ目の指標については対応が十分では無いようだ。方針の開示だけではなく、具体的な対応状況の開示が求められている。
次に、日経平均株価を構成する企業において、内部通報支援機能の指標に対する評価によって、ESGブックのスコアではどのような傾向が示されているのかみていきたい。
この内部通報支援機能の指標について、最も透明性の高い評価は④「Yes, External」であろう。会社の従業員や社内ステークホルダーだけでなく、社外のステークホルダーへも内部通報のホットライン等が使用可能になっている。この評価を得ている企業25社の各スコアの平均は、①全構成企業(日経平均構成企業)の各スコアの平均をいずれも上回っている。特に、企業倫理スコア・プラスは10ポイント以上も上回っており、高い透明性は企業倫理のパフォーマンスにも大きく寄与することを示しているのではないか。
③「Yes, Internal Only」の評価を得ている17社の各スコアの平均は、④の25社に比べるとあまり良いパフォーマンスとなっていない。リスク・スコア・プラスの平均は①の平均を上回るが、ESGパフォーマンス・スコア・プラスの平均は①の平均を下回っている。企業倫理スコア・プラスの平均は50を超え、①の平均を上回っている。
②「No Evidence Found」の183社の各スコアの平均は、いずれも①の各スコアの平均を下回っている。前述したように内部通報方針について開示している企業がほとんどであるが、具体的な内部通報の対応についての情報公開が十分ではないようだ。
それでは④の評価に含まれる企業はどのような対応をしているのだろうか。一例としては、内部通報のホットラインを企業倫理やコンプライアンスのソリューションを提供する専門企業に委託するなど、内部通報を行う告発者の匿名性の確保や第三者機関としての独立性、透明性を重視する対応である。内部通報制度を活用することで、情報開示の透明性が高まり、企業倫理のパフォーマンスも向上し、企業のサステナビリティの改善にもつながっていくのではないか。今後、このスコアの状況についても継続して見ていきたい。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)