ESG研究所【ESGブック】人的資本スコアの国際比較と日本企業の特徴

【ESGブック】人的資本スコアの国際比較と日本企業の特徴

人的資本に関する評価が高い100社で構成する株価指数「JPX日経インデックス人的資本100(JPX日経HC100)」は8月29日のリバランス以降、執筆時点である9月22日現在、親指数である「JPX日経インデックス400」を上回るペースで推移している。まだ1カ月にも満たない期間であるため、詳細な分析は次回以降に譲るが、構成銘柄の入れ替え後、懸念すべき影響は確認されていないようだ。

今回はJPX日経HC100のベースとなっている「ESGパフォーマンススコア・コア・ディメンション・人的資本スコア」(以下、「人的資本スコア」)について、主要地域の状況を概観する。主要地域は「北米」「欧州」「アジア太平洋(日本を除く)」「その他(南米・中東・アフリカ)」の4区分である。

下の表は、上記4地域において、人的資本スコアの上位100社を抽出し、それぞれの平均スコアを比較したものである。併せて、「8月27日の記事」(注)で紹介したJPX日経HC100を構成する100社の平均スコアも掲載している。ただし、各地域における上位100社の選定に際しては、同指数の構成銘柄選定に用いられている3つの加点項目(女性管理職比率、従業員給与の成長率、従業員一人当たり営業利益の成長率)は考慮されておらず、純粋に人的資本スコアの順位に基づいている。

 

 

人的資本スコアにおける日本企業と世界4地域との比較を通じて、日本企業の特徴が垣間見えるのではないだろうか。人的資本スコアの上位100社を対象としているため、トータルスコアであるESGパフォーマンススコア・コアは、いずれの地域においても人的資本スコアよりも低い水準にある。しかし、世界全体のスコア対象企業の平均値である51.34(8月27日の記事の表2に掲載)を大きく上回っている点は注目に値する。

指数を構成する日本企業のESGパフォーマンススコア・コアの平均は63.95であり、地域別ではアジア太平洋、欧州に次いで3番目の水準である。一方、人的資本スコアに関しては70.39と高水準であるものの、他の4地域の上位100社と比較すると、いずれも下回っており、最下位に位置している。特に、アジア太平洋の平均は83.99、欧州は83.35と、いずれも日本を大きく上回っている。

人的資本スコアは、以下の3つのカテゴリースコアで構成されている:

  • 労働慣行:指数構成企業の平均は74.33と、主要4地域の平均を大きく上回る水準にある。
  • 従業員エンゲージメント、多様性と包摂:指数構成企業の平均は43.90と50を下回っており、他地域の平均が70〜80台であることを踏まえると、改善の余地が非常に大きいことが明らかである。
  • 従業員の健康と安全:指数構成企業の平均は71.14と高水準であり、アジア太平洋、欧州に次いで3番目の位置にある。

このような分析から、指数構成企業は労働慣行や従業員の健康・安全では高い評価を得ている一方で、従業員エンゲージメント、多様性と包摂においては国際的な水準との差が顕著であり、今後の人的資本戦略における重要な課題となると考えられる。

今回の分析により、アジア太平洋地域の企業における人的資本スコアが、3つのカテゴリースコアを含めて欧州と比肩する水準に達していることが明らかとなった。ここ数年にわたり、サプライチェーンにおけるサステナビリティ対策や透明性の強化が進展してきたことが、人的資本の評価に反映されているものと考えられる。今後も機会を捉え、このような地域別の人的資本に関する調査・分析を継続的に実施していきたい。

最後に、8月27日の記事紹介したESGブックの兄弟会社であるアラベスクAIによるAIシグナル分析について、フォローアップする。2025年8月22日時点におけるAIシグナルを算出し、約1カ月後の株価上昇確率を示した。当該評価日におけるJPX日経HC100全体の平均シグナルは34.44%であり、AIによる予測では株価上昇の見込みは高くないと判断された。さらに、100社のうちAIシグナルが50%を超えていた企業は以下の3社のみだった:
商船三井(52.22%)、KDDI(50.51%)、日本郵船(50.19%)。

約1カ月後となる2025年9月22日時点では、同指数は8月22日の21937.00から22653.58へと3.27%上昇した。個別銘柄の動向を見ると、商船三井およびKDDIは下落し、日本郵船は上昇した。結果として、AIシグナルの予測精度は高いとは言えない状況だ。

2025年9月22日時点におけるAIシグナルが50%を上回る銘柄は、次の11社であった:
KDDI(63.75%)、東北電力(59.42%)、商船三井(54.69%)、マツダ(54.59%)、JFEホールディングス(52.81%)、ユニ・チャーム(52.50%)、日本郵船(52.13%)、双日(51.40%)、アサヒグループホールディングス(51.24%)、ニチレイ(51.15%)、INPEX(50.34%)。

AIシグナルが50%を超える個別銘柄については、引き続き継続的に観察・分析を行っていきたいと考えている。なお、JPX日経HC100は構成銘柄のウェイトが変動するため、指数全体に対するAIシグナルの予測精度評価は今後行わない方針とする。

(注)8月27日の記事
【ESGブック】リバランス後の人的資本スコア分析 株価指数「JPX日経HC100」 – 株式会社QUICK:Our Knowledge, Your Value.

 

ESGブック(アラベスクS-Ray 社)日本支店代表 雨宮寛