ESG研究所【ESGブック】プロ野球球団を経営する企業のサステナビリティ・パフォーマンス
2024年06月28日
今年の株主総会シーズンのピークが終わった。昨年同様にサステナビリティに関する議案や株主からの質問が多く出たようである。自社が経営に携わるプロ野球球団に関する株主からの声が聞かれた企業もあったと報じられている。プロ野球球団の経営が自社の価値創造に結びつき、その価値が多くのステークホルダーにとって共有できるものなのか。ESGブックの「ESGパフォーマンス・スコア」を用いてみてみよう。
新型コロナが猛威を振るっていた2022年春に一度、プロ野球球団のスポンサーなど経営に関与する上場企業の「ESGスコア」を比較したことがある(注)。本稿では「ESGスコア」を衣替えし、より透明性が高くなった「ESGパフォーマンス・スコア」を用いて企業のサステナビリティの状況をみていきたい。ESGパフォーマンス・スコアにおけるセ・パ両リーグの順位を出し、実際の順位と比べてみよう。
サステナビリティのパフォーマンスに使用したスコアは「ESGパフォーマンススコア・プラス(EPS+)」とそのサブスコアにあたる「ディメンションスコア・プラス」である。それぞれのスコアにプラスとついているのは、企業のサステナビリティの開示情報による評価に加え、サステナビリティに関する日々のニュースやNGO(非政府組織)などによる情報を考慮していることを示している。
まず、セ・パ両リーグの比較をしたい。各表の最後の行にESGブックのスコアの対象企業の平均スコアを示した。中日ドラゴンズを経営する中日新聞社は上場していないため、現在のところESGブックのスコアは付与されていない。そのため、セ・リーグは5社の平均スコアである。
セ・パ両リーグの平均スコアをみてみると、EPS+とそのサブスコアである5つのディメンションスコア・プラスの全てにおいてパ・リーグの平均スコアが上回っている。特にビジネスモデル&イノベーションはパ・リーグが9ポイント以上高い。人的資本を除くと、平均スコアは5ポイントほどの差がある。このことから、パ・リーグの球団を経営する企業の方が、サステナビリティのパフォーマンスは概ね良好だと考えられる。
セ・リーグでは、EPS+のトップは東京ヤクルトスワローズを経営するヤクルト本社、最下位は横浜DeNAベイスターズのディー・エヌ・エーとなっている。5つのディメンションスコア・プラスでは、広島東洋カープのマツダとヤクルト本社がトップを分け合っている。最下位はビジネスモデル&イノベーションが日本テレビホールディングス(読売ジャイアンツ)、リーダーシップ&ガバナンスが阪急阪神ホールディングス(阪神タイガース)、そして社会資本、人的資本、環境がディー・エヌ・エー(横浜DeNAベイスターズ)という結果だった。
パ・リーグは、EPS+のトップが東北楽天ゴールデンイーグルスを経営する楽天グループ、最下位は埼玉西武ライオンズを経営する西武ホールディングスだ。興味深いことに、ディメンションスコア・プラスは、西武ホールディングスを除く5社がトップを分け合っている。また、ソフトバンクグループやオリックスのようにトップのディメンションスコア・プラスの項目がある一方、最下位の項目もあるなど、サステナビリティのパフォーマンスでも熱戦を繰り広げているようである。
日本のプロ野球の12ある球団のうち11球団は、直接または間接的に上場企業が経営に携わっている。そのため、上場企業の株主総会において株主は当該企業を経営する球団について質問することができる。質問者はおそらく個人株主なので、その質問が企業の経営に大きく関わることにはならないと思われるが、株主でもある球団のファンが経営陣に直接質問をする機会があることは、双方にとって良いことなのだろう。この点で、中日ドラゴンズと中日新聞社は、重要な機会を逃してしまっているように思う。
プロ野球の順位は試合ごとに変わり、EPS+も毎日算出される。それぞれのパフォーマンスは2024年6月下旬のものに過ぎないが、前日よりも良いパフォーマンスを出そうと日々の試合に臨むように、サステナビリティのパフォーマンスも少しずつでも改善していくことが重要である。
(注)QUICK Money World(クイックマネーワールド) 2022年5月13日公開「プロ野球チームの順位をESGスコアで占うと…(アラベスクS-Ray)」
https://moneyworld.jp/news/05_00075951_news
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)