ESG研究所【ESGブック】フジHDなど放送セクターのサステナビリティ

【ESGブック】フジHDなど放送セクターのサステナビリティ

フジ・メディア・ホールディングス(フジHD)は1月27日、子会社フジテレビジョン(フジテレビ)の嘉納修治会長と港浩一社長の引責辞任を発表した。今回はテレビ局を傘下に持つ企業のサステナビリティのパフォーマンスを考察したい。フジHDをはじめとする日本のテレビ局を傘下に持つ企業と、海外の主要メディア企業を比較する。

この問題は、1月17日にフジHDが「グループ人権方針」を改めて徹底すると発表したことからわかるように、人権意識が希薄であったことによって生じたとの見解が多く聞かれる。人権と一口に言ってもその範囲は広いが、具体的にどのような人権問題が課題とされたのだろうか。フジHDとフジテレビは、第三者委員会の設置を決議しており、その詳細は今後の調査結果によって明らかにされると考えられる。

通常、サステナビリティのパフォーマンス評価にはESGブックの「ESGパフォーマンス・スコア」を使用するが、今回は人権問題に関連する事案であるため、国連グローバル・コンパクト(UNGC)の10原則を基準とした、ESGブックが提供するリスクスコアにニュースインパクトを加味した「リスクスコア・プラス(ERS+)」を使って比較する。

 

 

表は、放送セクター(全世界約30社)におけるERS+の対象となっている日本の主要メディア4社と、同セクターのスコア上位5社、放送セクターの平均スコア、ならびに全セクター(世界の上場企業約9000社)の平均スコアを示したものである。スコアはERS+スコアと、その構成要素となる4つの中核課題(人権、労働、環境、腐敗防止)の「ピラースコア・プラス」を含んでいる。

ERS+は、日本の4社がいずれも放送セクターの平均スコアを下回っている。フジHDとテレビ朝日ホールディングス(テレビ朝日HD)の筆頭株主(親会社等)である朝日新聞社はUNGCに署名しており、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の正会員企業であるが、フジHD、テレビ朝日HDともに低いスコアとなっている。

ERS+はUNGCの10原則に基づく評価指標に従い、企業の開示情報を収集し評価している。そのため、低いスコアは、評価に必要な開示情報が欠落している、または不足していることを反映している。特に、上記2社については、10原則を再確認し、自社の情報開示の質・量を向上させることが期待される。

同セクターの上位5社は、それぞれ異なる国の企業である。このうち上位2社は、同セクター平均および全セクター平均を全スコアで上回っている。これらの企業は、世界の上場企業の中でもUNGCを基準としたサステナビリティのパフォーマンスが優れていると評価される。

上位3位から5位の企業については、ERS+が同セクター平均および全セクター平均を上回っている一方で、ピラースコア・プラスの中で平均を下回る中核課題が見られる。この点は、今後の改善点として参考にしていただきたい。

改めて、日本の4社を見てみる。4社のERS+は、いずれも同セクター平均、全セクター平均を下回っている。中核課題の人権、労働、環境、腐敗防止に関する情報開示の改善はもちろん、これらの課題に対する姿勢や取り組みが企業のサステナビリティ評価に影響を及ぼすことを認識する必要がある。

フジHDに関しては、ピラースコア・プラスの一つである腐敗防止スコアが19.71である。これは、ERS+のスコア対象企業の全世界約9000社の中で、下位2パーセントの水準に該当する。ERS+のスコアでは、このような下位2パーセントに属する企業についてリスクに晒される可能性が高いと見なし、「リスク・エクスポージャー・フラッグ」を付与している。

フジHDは、ERS+のスコアが開始された2021年以降、同フラッグの付与が始まった。22年には一度解消されたものの、23年に再び付与され、24年以降も続いている。つまり、同社の腐敗防止に関する開示情報の質・量は世界の企業に比べて不十分であり、リスクが潜んでいると考えられる。

腐敗防止スコアは39の評価指標で構成されている。マネーロンダリング対策やインサイダー取引、贈収賄・汚職防止に加えて、内部通報制度や取締役会、各委員会の透明性などが評価対象である。これらの指標で評価された腐敗防止スコアが絶対的にも低く、さらに世界全体の下位2パーセントに位置するということは、同社の腐敗防止に関する備えに大きな課題があることを示している。

腐敗防止は、自社と外部との利害関係で生じる問題が多い。対応次第では、人権や労働問題、環境問題を引き起こす可能性もある。企業の体質を改善するために、腐敗防止スコアを構成する39指標をチェックし、現在の状況を確認しながら、今後の改善に活用していただきたい。

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)