ESG研究所【ESGブック】バイオダイバーシティ(生物多様性)の開示状況
2023年05月29日
気候変動への対策は世界全体の喫緊の問題であり、すべてのステークホルダー(利害関係者)が取り組まなければならない。そのステークホルダーは何も人間に関する分野だけではない。生き物全般も含めて考えなければならない。このような中で注目が集まっているのが「バイオダイバーシティ(生物多様性)」である。
世界気象機関が5月17日に発表した報告書(注)は、2023年から2027年の5年間の間に1年間でも年平均気温が産業革命以前の気温を1.5度上回る可能性は66パーセントとした。さらに、98パーセントの確率で、この5年間は歴史上で最も気温の高い期間になると予測している。
一方、上記のような事が発生したとしても、それが長期に亘って継続することを意味しているわけではないとも指摘している。気温上昇の大きな要因の一つに今後数カ月に発生するエルニーニョを挙げ、人為的な気候変動の影響と重なり、一時的に1.5度を上回る可能性があるということだ。
温暖化を進行させる森林伐採が生物の生息地を破壊してバイオダイバーシティを損ねるなど、両者は密接に結びついている。バイオダイバーシティについても企業はその活動を報告するよう情報開示のフレームワーク作りが進んでいる。
2021年6月に国連開発計画(UNDP)、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、世界自然保護基金(WWF)、そして英非営利シンクタンクのグローバル・キャノピーが設立パートナーとなりTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足された。発足後、TNFDは主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議、20カ国・地域(G20)サステナブルファナンス作業部会や国連事務総長、主要国のリーダー等から賛同を受けている。
TNFDは今年3月、報告開示フレームワークの4番目のベータ版を発表し、正式なリリースを今年9月に予定している。ESGブックのプラットフォームではバイオダイバーシティに関して約124の指標を網羅している。
さらに、ESGブックが提供する、ESG報告に関する様々な基準や指針を閲覧できる「レポーティング・エクスチェンジ」から主要な報告開示フレームワークにおいてバイオダイバーシティに関連した定量的指標の数を調べたところ下図のようになった。
このように現在の主要な報告開示フレームワークの中では、77の業種別フレームワークを用意している米国のSASB(サステナビリティ会計基準審議会)が最も多くの指標を設けている。
今後、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のように主要国の官民が積極的な企業の情報開示に動いていけば、主要フレームワークにおけるバイオダイバーシティ関連の指標数は増え、TNFDによる報告開示も進んでいくであろう。ESGブックでは継続してバイオダイバーシティ関連の指標の開示内容や指標数をモニタリングし、主要フレームワークの更新やESGブックの「ESGパフォーマンス・スコア」の指標の見直しにつなげていきたい。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)