ESG研究所【ESGブック】セブン&アイ買収提案、競合各社のESGパフォーマンス比較
2024年08月28日
日本の最大手コンビエンスストアチェーンであるセブンイレブンを経営するセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)にカナダの同業大手のアリマンタシォン・クシュタール(以下、クシュタール社)が買収を提案したというニュースが伝わった。今回は両社を含む世界のコンビニ各社のESGパフォーマンスを見てみたい。
現時点では、この買収提案は進行中で、どのような結果になるのかは分からない。ここでは買収を提案しているクシュタール社とセブン&アイ、同業の競合企業として、ESGブックのスコア対象となっている5社を比較した。
競合企業として選んだのは、日本のイオン、米国のマーフィーUSAとケーシーズ・ゼネラル・ストアーズ、フランスのカルフール、そしてメキシコのフォメント・エコノミコ・メヒコである。世界のコンビニ業界の売上ランキングなどを掲載する複数のウェブサイトから、ESGブックのスコア対象となっている上場企業で、同ランキングで上位10社に入っている企業を選んだ。
セブン&アイは、グローバルや米国のランキングでも首位で、クシュタール社が2位に着けている場合が多い。今回の買収劇は売上規模2位のクシュタール社が首位のセブン&アイを買収するということだ。しかし、すでにニュース等で報じられている通り、クシュタール社の時価総額は約7.9兆円(約740億カナダドル、8月26日)、セブン&アイの時価総額は約5.4兆円(8月26日)と、クシュタール社はセブン&アイに比べて約1.5倍の時価総額を有している。つまり、売上規模は劣るが、時価総額が大きい企業による、時価総額の小さい企業の買収提案である。クシュタール社にとっては是が非でも買収を成功させたいのではないか。
それでは、サステナビリティのパフォーマンスをみてみよう。サステナビリティのパフォーマンスでは、両社は大分異なる様相を呈する。表からお分かりのように、セブン&アイのESGパフォーマンススコア・プラス(以下、EPSP)は72.52と、7社の中で最も高い。一方、クシュタール社のEPSPは48.44と7社の中で下から2番目であり、7社の平均(56.37)を下回っている。スコアに「プラス」が付くのは、企業の公開情報に加え、企業に関するメディアのニュースやNGO(非政府組織)の情報を反映していることを示す。
SASB(サステナビリティ会計基準審議会)スタンダードの5つの領域をベースに算出しているディメンションスコア・プラスでは、クシュタール社の人的資本のスコアは30.86と7社平均(52.30)を大きく下回り、最下位である。セブン&アイは、環境(82.54)と社会資本(72.65)が7社の中でトップとなっている。このように2社のサステナビリティのパフォーマンスは大きく異なっており、クシュタール社がセブン&アイを買収した場合、セブン&アイがこの優れたサステナビリティのパフォーマンスを維持できるのか、心配な点だ。
競合企業として挙げた他の5社のパフォーマンスはどうであろうか。EPSPのパフォーマンスでは、セブン&アイに次ぐ2位はフランスのカルフール(64.62)であった。同社はディメンションスコアのビジネスモデルとイノベーションのスコアが81.05とトップであった。EPSPの3位はメキシコのフォメント・エコノミコ・メヒカノの61.38だった。4位は53.97のイオンで、人的資本のスコアが70.54とトップであるものの、社会資本、リーダーシップとガバナンスではそれぞれ38.62、42.61と最下位であった。
そしてEPSPのパフォーマンスで5位と最下位が米国の2社(マーフィーUSAとケーシーズ・ゼネラル・ストア)で、それぞれEPSPは50.03、43.57であった。ケーシーズ・ゼネラル・ストアはリーダーシップとガバナンスのスコアが58.59とトップである一方、環境、ビジネスモデルとイノベーションでそれぞれ35.46、41.42と最下位だった。
クシュタール社とセブン&アイ、そして競合企業として挙げた5社のサステナビリティに関するパフォーマンスはまちまちであったが、大きくグループ分けすると、EPSPの高いグループのセブン&アイ、カルフール、そしてフォメント・エコノミコ・メヒカノは、5つのディメンションスコアでも相対的に大きな弱点はなく、安定したスコアとなっている。残りの4社については、5つのディメンションスコアのいずれかのスコアで30台や40台が複数あり、今後の改善が期待される。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)