ESG研究所【CDPフォレスト2022】シュローダー・りそなアセット、対話を重視 完全版レポート公開
2023年04月28日
環境NPO(非営利団体)の英CDPは27日、森林保全に関する企業の開示や取り組みを評価した「CDPフォレストレポート2022:日本版」を公開した。同レポートはQUICK ESG研究所がCDPのパートナーとして執筆した。今回公開されたのは、2月の「ダイジェスト版」に次ぐ「完全版」だ。
CDPは「気候変動対策」「水セキュリティ(水資源保護)」についてもレポートを毎年公開している。本日公開された2022年の「フォレストレポート」完全版では、英ロンドンに本社を置く独立系資産運用会社であるシュローダー・グループと、りそなグループの資産運用会社りそなアセットマネジメントへのインタビューを掲載している。共に、企業にESG課題への対応を促す責任投資を進めている。
シュローダーは、環境NPOのグローバルキャノピーが企業や金融機関の森林保護の取り組みを評価する「フォレスト500」ランキングで、22年のスコアが金融機関の首位だった。一方、りそなアセットは環境先進企業としての取り組みが評価され、環境省の「エコ・ファースト企業」に認定されている。
インタビューでは共に、パーム油などの森林破壊を招きかねない「森林リスク商品」を扱う企業に対するエンゲージメント(対話)の重要性を語っている。シュローダーは森林などの自然資本と生物多様性が重要な理由として「森林破壊は世界的な金融の安定性に対するシステミックリスクとなっている」ことと、企業が規制の強化に対応できない場合に生じる可能性がある「投資リスク」を挙げた。
シュローダーは企業の森林リスク管理と関与の度合いを測定するため、異なるデータソースを統合した「スコアカード」を開発。「本当に変革が必要な企業に注力している」という。企業に対して森林破壊をなくすための「期限付き目標の設定」「独自のリスク評価」「取締役会レベルの監視」「サプライチェーン(供給網)のトレーサビリティー(生産流通履歴)」などにより成果を測っている。
日本企業に対しては「サプライチェーンを十分に監視しなければ、より責任のある対応をしている企業に比べて、追加コストに直面し、特定の市場において不利な立場に立たされる可能性がある」と指摘。サプライチェーンを通じて森林リスクに間接的にさらされている企業に注意を促した。
一方、りそなアセットは21年度に61社と「持続可能なパーム油」の調達をテーマとしたエンゲージメントを実施したことを説明している。消費者に近い小売りや外食・サービス業といった「川下」企業から、総合商社、搾油・一次精製企業、パーム農園運営企業といった「川上」企業まで対話した。オランダの運用会社が主導する協働エンゲージメントを通じて得られた知識も活用した。
エンゲージメントは10段階のプロセス(枠組み)に沿って推進している。パーム油が森林破壊や児童労働、強制労働などのリスクにつながることへの理解促進から開始。取扱製品におけるパーム油やパーム油由来原料の使用の特定、トレーサビリティーの確保や持続可能な調達方針の開示、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)への加盟とRSPO認証パーム油の購入への要求に進むという。
また、森林リスク商品を取り扱う企業のリスク管理だけでなく、機会にも言及している。欧州を中心にRSPO認証を重視する動きがあるため、「投資先企業に対しては、パーム油課題に取り組みリスクマネジメントを図ることは、欧州とのビジネス機会につながる可能性があると説明している」という。以上、「CDPフォレストレポート2022:日本版」の記事から抜粋した。
森林は二酸化炭素を吸収・貯蔵しているうえ、多様な植物や野生生物が生存しており、温暖化抑制だけでなく生物多様性の維持にも不可欠だ。森林課題は近い将来、より多くの規制を受け、消費者や投資家の関心が高まりそうなテーマであり、企業に財務的なインパクトを与える可能性が高いとみられる。それだけにCDP質問書への回答などを通じた、企業による森林リスク商品関連の一層の開示が望まれる。
(QUICK ESG研究所)
CDPフォレストレポート2022:日本版 はこちら