ESG研究所【CDPセクターレポート】Melting point:融点(鉄鋼セクター)

本稿は、CDPのセクターレポートをQUICK ESG研究所が翻訳したものです。

 

気候変動指標から鉄鋼業の収益を考察

本レポートでは、2016年10月にCDPが公表した鉄鋼業調査レポートと鉄鋼メーカー評価ランキングの内容を拡充し更新した。世界の鉄鋼業大手上場20社を対象に、低炭素社会への移行に向けた対応状況を評価しランク付けしている。これら20社の鉄鋼生産量の合計は、世界の鉄鋼生産量の30%を占める。鉄鋼業界は、化石燃料使用を含め、世界全体の温室効果ガス排出量の7%~9%を排出している。

国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)の2℃シナリオ(IEA 2DS)に準拠するなら、2050年までに2014年比で排出原単位を65%削減する事が必要だ。鉄鋼業界は、伝統的にエネルギー効率の大幅な向上を達成してきた。現代の製鉄プラントはエネルギー効率技術の限界に近いところで稼働している。鉄鋼一次製品の約70%は依然として、効率性は高いがエネルギー集約型の高炉(BF/BOF)ルート(注1)で生産されている。

低炭素経済への移行のため、鉄鋼業界は、排出量を激減させる技術革新と、従来の製鉄工程を代替する技術の実用化により、大幅な排出削減が求められるだろう。

調査対象20社の気候変動への対応を以下4つの主要観点で評価した。これらは、G20金融安定理事会の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿っている。

  • 移行リスク:企業のスコープ1 + 2の排出原単位とエネルギーパフォーマンス、データの透明性とスコープ3の排出量レポートを評価
  • 物理的リスク:局所的な水ストレス問題に対する企業のエクスポージャーを事業全体に渡り施設ごとに分析し、企業の水消費およびガバナンス体制と比較
  • 移行機会:製鉄と循環性に関連した低炭素の技術革新への企業の関与を評価。また、再生可能エネルギーへの研究開発および投資レベルを分析
  • 気候変動に関するガバナンスと戦略:排出削減目標、ガバナンス体制や報酬体系と低炭素目標との整合性・関連性など、各社のガバナンス体制を分析。どの企業がシナリオ分析を実行し低炭素イニシアチブに準拠しているかを評価

 

主な調査結果

  • ランク1位はSSAB(スウェーデン)。2~4位には、アルセロール・ミタル(ルクセンブルク)、現代製鉄(韓国)、タタ・スチール(インド)が僅差で入っている
  • 下位3社は、包頭鋼鉄(内モンゴル自治区)、USスチール(米国)、北京首鋼(中国)である
  • 評価が最も高い企業と最も低い企業との間には大きな地理的格差がある。中国、ロシア、米国の企業は、主要観点での情報開示と実績の点で遅れをとっている
  • 世界の炭素価格が2040年までにCO2トン当たり100USドルに上昇する2℃シナリオの下では、加重平均された企業のバリュー・アット・リスクは正味現在価値の14%であることが分かった(注2)
  • 排出量とエネルギー消費量の報告は企業間で一貫性がない。世界鉄鋼協会の指針に沿って排出原単位を明確に開示しているのは4社のみである(注3)
  • 製鉄によって排出されるスコープ1 + 2の削減に向けた進展はあまりないが、排出原単位は2013年から年平均0.92%減少している
  • 対象20社における内陸部の鉄鋼生産能力の50%以上が、水ストレスのリスクが高い地域に集中している。中国とインドに拠点を置く企業が最もリスクにさらされている
  • TCFDに正式賛同しているのは5社のみである
  • 20社のうち7社が、製鉄事業で再生可能エネルギーを利用するために電力購入契約を締結している
  • 6社が技術革新を実現している。例として、水素を利用して製鉄時のCO2排出削減を図る取り組みや、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:分離・貯留したCO2の利用を意図するもの)のイニシアチブなどがある
  • 60%の企業が排出削減目標を設定しているが、2℃以下の排出シナリオに対応しているのは2社のみ。 SSABは、全事業を通じて2045年までにカーボンニュートラルを目指す目標を設定した
  • 企業は、シナリオ分析を利用して気候変動が事業に与える影響を評価し始めている。 7社が内部炭素価格を導入している

(注1)高炉(BF/BOF)ルートは、鉄鉱石と石炭(コークス)を原料に高炉(溶鉱炉)で銑鉄をつくり、転炉で精錬し、成分を調整して鉄鋼を生産する
(注2)主要な2ºCシナリオでは、各企業のバリュー・アット・リスクは正味現在価値の2.5%~30%の範囲である
(注3)類似比較可能な排出原単位を計算するために、世界鉄鋼協会の指針では、前処理された原料の調達に関するスコープ1、2および上流のスコープ3排出量を含める必要がある

図1 低炭素社会移行における機会とリスク

以下のリーグテーブルに評価分析結果をまとめた。企業のパフォーマンスに重大な影響を及ぼす炭素、移行的な指標の詳細な分析に基づいている。リーグテーブルは、政府によるパリ協定に向けた取り組みに沿った鉄鋼業の対応状況を示す。順位の低い企業は低炭素社会への準備が不十分な企業といえる。

図2 リーグテーブルサマリー

図3 企業の排出削減目標

 

参照
CDP「Melting point」2019年7月(2019年8月9日情報取得)

QUICK ESG研究所 CDPチーム