ESG研究所【ESGブック】COP27の企業と金融機関への影響

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2023年の最初の寄稿は弊社の気候変動を担当するチームのメンバーであるシュラティ・バルガヴァのレポートを紹介したい。バルガヴァは昨年11月にエジプトで開催された第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)が企業と金融機関にどのような影響を持つのかをまとめている。ここでは会議でメインになった3つの課題と、それに準ずる3つのイニシアティブを取り上げてみたい。

2022年は1月から9月までの間に29もの異常気象が発生し、物理的および金額的にも甚大な影響を及ぼした。パキスタンでは大規模な洪水が複数回発生し、国土の3分の1が浸水被害にあった。一方、ヨーロッパでは過去500年で最悪の干ばつが起こった。このような異常気象が発生している中、ロシアによるウクライナ侵攻で世界的にエネルギー需給が逼迫し、エネルギー価格が高騰、そして世界中でインフレ圧力が高まる状況が続いている。こうした中で開かれたCOP 27は様々な結果をもたらすこととなった。

■3つの課題
(1)ロス&ダメージ
ロス&ダメージ(損失と被害)の支援パッケージはCOP27で初めて提案されたものではなく、30年前の気候変動に関する国際連合枠組み条約(UNFCCC)の際に草案が出されたコンセプトである。当時は、気候変動により海面が上昇して損失を被る島国(小島嶼国連合)に対してその損失をカバーする保険を設定するスキームであった。その後のCOPでも継続的に議論がされたが、具体的な成果は得られなかった。

そのような中、今回のCOP27においてロス&ダメージの基金を設立するという歴史的な合意が発表された。今後については、どのようにロス&ダメージ基金を設立するのか、同基金への資金は誰が提供するのか、どの国・地域が同基金からの資金の提供を得るのか等々、多くの事項を決めて行かなければならいない。しかし、気候変動による災害に最も脆弱な国・地域を支援することを目的としたロス&ダメージ基金の設立を決めたことはCOP27の特筆すべき成果である。

(2)気候ファイナンス
ロス&ダメージ基金は気候変動への適応と緩和に必要な資金の一部にしか対応していない。たとえば、気候変動への適応に必要な資金は2030年までに毎年1600億ドルから3400億ドルと推計されている。COP27で各国政府や開発機関等が適応基金に拠出を約束した金額は2億3000万ドルにすぎない。この金額はCOP26で約束した3億5600万ドルを下回っている。さらに、富裕国は2009年に毎年1000億ドルを気候ファイナンスに充てるという約束をしたが、果たされていない。COP27では、このような富裕国に対してこれまでの約束や目標を果たすよう強い要請が示された。

(3)エネルギー移行
未だに需要の高い石炭火力の段階的な縮小は前回のCOP26において重要な議論の一つであった。COP27においても再度議論された。石炭火力を含むエネルギーミックスにおいて、再生可能エネルギーの割合を増加し、低炭素排出のエネルギーシステムの構築を加速させる方策に対する議論が中心となった。しかし、現在の温室効果ガス削減の誓約を考慮しても、2100年までに気温は2.8℃上昇する可能性が高い。次回のCOP28では、あらゆる形態の化石燃料依存からの脱却に向けた対策を、緊急性を持って決めていくことが求められる。

これらのメインとなった3つの課題とは別に、民間セクターにとって重要な取り組みの進捗があった。COP26で発足したファースト・ムーバーズ・コアリションである。COP27では、このコアリションへの参加企業数が60を超えるまでに増加したと発表された。セメントとコンクリート業界の脱炭素を促進するために120億ドルを拠出することが示された。同コアリションの「削減が難しい」業界にはセメントとコンクリートのほかアルミニウム、鉄鋼、航空、海運、トラック輸送が含まれている。

■3つのイニシアティブ
(1)利用可能な気候データ
2015年12月のパリ協定採択後、ネットゼロを目指すために複数の企業が集まる団体や会合が組織されてきた。しかし、信頼性の高い有効な気候変動に関するデータの有無は大きな問題である。COP27において、英環境NPO(非営利団体)のCDPは国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の気候関連の標準開示をCDPの開示プラットフォームに含めることを発表した。これは、気候データの一貫性を保つ上で重要なことである。但し、開示されたデータを比較するためには、既存のデータの透明性を確保する等、やるべきことはまだ多い。

2021年4月に発足したGFANZ(グラスゴー・フィナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ)は、COP26で金融セクターから130兆ドルを上回る資金協力を取り付け、2050年までにG20の政府及び企業に対して気温上昇を1.5℃に抑制する対策を取るよう呼びかけている。GFANZとそれに属する7つの業種別アライアンスは気候データ運営委員会を立ち上げ、ネットゼロ・データ・パブリック・ユーティリティ(NZDPU)の構築を進めることになった。NZDPUは民間セクターの気候データを集める公共のデータベースとして重要な役割を担うことになるであろう。

(2)公平なエネルギー移行パートナーシップ
この1、2年のエネルギー危機は世界各国で再生可能エネルギーへの移行を促した。しかし、エネルギー移行に必要なインフラの整備が十分ではない。公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)は石炭火力に大きく依存した経済を再生可能エネルギーに移行するプロジェクトである。COP26において南アフリカに対して85億ドルをエネルギー移行資金として支援することを発表した。COP27を迎えるにあたり、インド、インドネシア、ベトナム、セネガルの4カ国がJETPへの参加を決めた。次の(図)は、JETP参加5カ国の二酸化炭素排出量の推移である。エネルギー移行には長い年数を要しそうである。

(3)カーボントレード
カーボントレードのコンセプトはこれまでも議論されてきており、COP27ではカーボン市場の開設とエネルギー移行アクセラレーター(ETA)の枠組みが紹介された。各国が自国の温室効果ガス排出量を、他国の同排出量の削減でオフセットするスキームに合意するにはまだ数年の期間を要するであろう。しかし、多くの企業にとって炭素除去とカーボンオフセットはネットゼロを目指す上で重要な取り組みである。カーボンオフセットの取引で開発途上国に支払われる金額と前述した基金等の資金により、開発途上国向けに必要な気候ファイナンスの実行の可能性は高まるのではないか。

COP27では、これまでのCOPで示されたコミットメントに後退がなかったこと、および世界の気温上昇のピークを1.5 ~ 2.0°C に抑えるための取り組みを継続することに各国が合意した。これはとても重要なことだ。さらに、国連の勧告は、金融機関や民間セクターがネットゼロのコミットメントに必要な資金を検討する上で参考となるガイダンスを提供している。COP27の成果の評価は様々であるが、これから進んでいく道筋は明らかである。今年の11月30日からアラブ首長国連邦で開催されるCOP28に向けて、民間セクターは有言実行が求められる。

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)