ESG研究所【ESGブック】サステナビリティ項目で振り返る2022年
2022年12月28日
今回は、2022年のサステナビリティのパフォーマンスがどのように推移したのかをESGブックで毎日スコアリングをしている20種類のサステナビリティ項目(全部で22種類あるが、「フォレンジック会計」と「資本構造」は財務関連の指標を含むため除外)の過去1年のスコアの推移をみていくことで、2022年のサステナビリティの動向をまとめてみたい。
ESGブックのスコア対象となっているグローバルなユニバース全体(約1万社)とそのうちの日本企業(約600社)を比較してみたい。下の(表1)はユニバース全体、(表2)は日本企業において、20種類のサステナビリティ項目のうち、過去1年の平均スコアのパフォーマンスが良かった上位5項目である。ユニバース全体と日本企業のみで比べると、上位5項目で重なっている項目がないことがわかる。
ユニバース全体では、「廃棄物」がこの1年間で最もパフォーマンスの上昇したサステナビリティ項目となった。海洋プラスチック問題をはじめとして、廃棄の問題が世界的に注目された1年であった。大手スーパーや飲食チェーンで、プラスチック製の容器や袋、ストローを紙製に変更する動きや、廃棄されたプラスチック等を資源として再利用する動きなど、様々な企業の活動が発表された。第2位以下のサステナビリティの項目についても、コロナ禍の長期化等による企業活動の見直しや企業行動の改善などに関連した項目が上がった。
一方、日本企業では、この1年間、日本企業が力を入れてきたサステナビリティ項目として、多くの読者も納得できる結果となったのはないか。前年比で最も上昇した項目である「報酬」は、世界的にみても低く評価されてきた。ユニバース全体の「報酬」の平均スコアは55.53(2022年12月22日)で、前年比で0.15ポイント上昇した。日本企業の「報酬」の平均スコアは38.88と、ユニバース全体の平均スコアよりも15ポイント以上離されている。前年比で2.38ポイント上昇したが、2023年以降も、日本企業には力を入れて欲しい項目である。
2位以下も、日本企業のみならず、日本社会にとって重要なサステナビリティ項目であったのではないか。日本企業がこれら項目に注力し、その結果、平均スコアが上がったことは良かったと思う。
続いて、平均スコアのパフォーマンスが芳しくなかった下位5項目をみていきたい。下の(表3)はユニバース全体、(表4)は日本企業である。下位項目はユニバース全体と日本企業で「環境マネジメント」、「プロダクト・アクセス」、「水」の3項目が共通している。
出所:(表1)から(表4)のデータはESGブック(アラベスクS-Ray)の2021年12月22日と2022年12月22日のフィーチャーレイヤーに属する20種類のサステナビリティ項目のスコアから筆者作成
ユニバース全体は最下位とその次点に「環境マネジメント」と「環境スチュワードシップ」が入った。ユニバース全体の「排出」の平均スコアは50.61(2022年12月22日)で、前年比で0.29ポイント上昇し、世界的に企業は気候変動への取り組みを進めた1年であったが、環境全般でみると大きな変化はなかったといえる。
一方、日本企業は、「プロダクト・アクセス」のパフォーマンスが最下位となった。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇によるインフレで消費者の購買に影響が及んでしまったことや、地政学リスクの高まりで物流コストの上昇や物理的なリスクが生じ、同項目はマイナスになったのであろう。日本企業においては、前年比マイナスになったのは2項目のみで、下位3位〜5位は前年比でプラスだった。
このように、20種類のサステナビリティ項目の過去1年のパフォーマンス(上位5項目、下位5項目)をみてきた。ユニバース全体、日本企業、それぞれにこの1年のサステナビリティへの取り組みの特色が出ていたように思う。
2023年はどのような1年になるのであろうか。この1年のようなインフレが続くようであると、「プロダクト・アクセス」の低下傾向は続いてしまうのか、2022年の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で2030年世界目標が採択されたのを受け、「環境マネジメント」や「環境スチュワードシップ」等の「排出」以外の環境の項目のスコアが上昇するのか、ユニバース全体と日本企業のスコアの状況は変わっていくのか、引き続き注視していきたい。
(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)