ESG研究所【セミナー参加報告】RI Japan 2021③ネットゼロ移行に向けた金融の役割とは
2021年06月09日
英国のESG・責任投資専門メディア、Responsible Investor(レスポンシブル・インベスター)が5月17~21日に開催したオンラインセミナー「RI Japan 2021」の3日目はコーポレートガバナンス・コードの改訂案やサプライチェーンのサステナビリティ課題をテーマに意見が交わされた。
ガバナンス・コード改訂、サステナビリティを経営の中核に価値向上へ
3日目のパネル討論では「ガバナンスと企業価値創造の次のステップ」というテーマで、日本のガバナンスの過去、現在、未来という観点から議論がなされた。日本では2015年にコーポレートガバナンス・コードが策定され、18年に改訂された後、21年に再改訂が予定されている。
三菱UFJ信託銀行資産運用部の三橋和之副部長兼フェローは金融庁が今春発表したコーポレートガバナンス・コードの改訂案について「サステナビリティを企業経営の中核に据えることで企業価値向上を促す、重要なステップである」と評価した。半面、「政策保有株式について言及がない点に物足りなさがある」とも指摘した。投資家の立場から「サステナビリティへの対応は画一的なものでなく、企業の多様な見方が反映される点を理解しながら企業価値向上に寄与したい」と述べた。
日本経済団体連合会の正木義久ソーシャル・コミュニケーション本部長は「従来のガバナンス・コードが、稼ぐ力の向上にどの程度寄与したかは検証の余地がある」と主張した。今回の改訂案を含めて「モニタリングボード化へのコンプライが念頭に置かれている」との見方を示した。企業と投資家との対話については「コンプライ・オア・エクスプレイン(従うか、従わない理由を説明する)なので、各社が最も効果的だと思うガバナンスをエクスプレインし、投資家と対話を重ねることが実質的な対話である」との見解を語った。
International Corporate Governance Networkの Policy DirectorのGeorge Dallas氏は、今回のガバナンス・コード改訂に関して「株式持ち合いの透明性向上や年次株主総会前の有価証券報告書提出、有報でのサステナビリティに関する開示を求めたい」と要望を述べた。一方で、「社外取締役の比率向上やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った開示要請などポジティブな変化」にも触れた。そのうえで「サステナビリティは財務リターンとトレードオフでないことを投資家も理解し、サステナビリティに取り組む能力のある企業を選んでいくことが求めらえる」との見方を示した。
Université libre de Bruxelles教授でECGIのエグゼクティブディレクターでもあるMarco Becht氏は「役員報酬と従業員報酬の公平感、人的資本の扱いなど日本独自の価値観の良さもあり、全企業が同じガバナンス構造である必要はない。だからこそ、エンゲージメントが非常に重要である」と指摘した。今後は「サステナビリティの議論における日本の積極的な関与も不可欠である。サステナビリティはグローバルな課題である以上、日本も含めて世界規模での合意を得なければならない」と強調した。
人権課題は長期のエンゲージメントで改善
3日目の探求討論では「サプライチェーンにおけるサステナビリティ課題」がテーマだった。AlectaのChief Executive OfficerであるMagnus Billing氏は、長期視点の投資家として企業価値維持のために人権問題を考慮しているといい、問題のある企業については「(企業と投資家の)信頼に基づく建設的な対話による長期のエンゲージメント(対話)で改善することがより好ましい」と語った。時間をかけたエンゲージメントのメリットとして「企業の付加価値を生み出すトランジションやそれをサポートすることで、エンゲージメントの負のコストを克服できる可能性が出てくる」と指摘した。
First Sentier InvestorsのResponsible Investment Specialistを務めるKate Turner氏は選任の投資チームが専門家の知見も活用して人権などの課題に対処しているといい、「被害者の救済が重要で、ダイベストメント(投資撤退)は最後の手段だ」と述べた。アパレル業界では「現代奴隷のリスクが高いと考えられているが、新型コロナウイルスへの感染リスクが相対的に高いなどの新たな問題が明らかになった」と主張し、「我々がベストプラクティスを提示し、企業と共有することで改善が可能になる」と語った。
BMO Global Asset ManagementのResponsible InvestmentのDirectorであるNina Roth氏は「2020年に760社とエンゲージメント(対話)を実施し、約30%が社会問題(労働、人権、公衆衛生)がテーマだった」と明かした。企業に何を期待するのかについて、国際基準に沿ったポリシーステートメントを定めて公開したが、「人権、労働権、安全な公衆衛生を3つの重要な要件として定め、さらに詳細な要件を定めている」という。紛争地域については人権に関してどのように影響が出ているかなどを定期的に監視しているといい、「ダイベストメントやその他の措置をとる可能性があるが、その前に長期にわたるエンゲージメントを実施することになるだろう」と述べた。
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