ESG研究所【セミナー参加報告】RI Europe 2021 CSRDの役割とは

英国のESG・責任投資専門メディアであるレスポンシブル・インベスターは2021年6月14~18日、ウェビナー(オンラインセミナー)形式で「RI Europe 2021」を開催した。同イベントはこれまで14年間に渡り開催されてきているが、ウェビナー形式での開催は昨年2020年に続き2度目となる。

5日間に渡り、SFDR(EUのサステナブルファイナンス開示規則)、CSRD(EUの企業サステナビリティ報告指令)、EUタクソノミーをテーマに、これまでの進展と課題について、投資家、NGO、当局者らが議論を繰り広げた。本稿は初日の「Plenary 1」を紹介する。「The role of the revised Corporate Sustainability Reporting Directive (CSRD) in addressing ESG data gaps for companies and investors」というタイトルで、情報開示基準を構築することへの期待と懸念について議論が交わされた。

オランダの機関投資家団体ユーメディオン(Eumedion)でエグゼクティブディレクターを務めるリエンツ・アブマ(Rients Abma)氏は、投資家として企業の情報開示に求めるものについて、長期間に渡る価値創造のためのポテンシャルだ、と主張した。今、投資家はSFDR、タクソノミーに沿って行動し、TCFD(気‌候‌関‌連‌財‌務‌情‌報‌開‌示‌タ‌ス‌ク‌フォー‌ス)‌の提言も考慮している。CSRDもこれらと足並みを揃えたものにすべきと語った。CSRD構築に当たり、Reporting Layer(セクター・スペシフィック、エンティティ・スペシフィック)、Reporting Area(ストラテジー、インプリメンテーション、パフォーマンス)、Reporting Topic(ESG)のトリプルRアプローチが重要だとした。そして企業サイドから見ても、情報開示を行うことで、サステナビリティの戦略、ガバナンス、リスクマネジメントの3分野における取締役会が取るべき責任が見えてくる、とした。最後に、European Consistency(欧州圏内における軸)としてのCSRD構築には約3~5年を要するが、今後、欧州圏内だけでなくInternational Consistency(国際的な軸)になることを期待するとまとめた。

社会・環境問題の解決を目指す法律・専門家グループであるFrank BoldでHead of the Responsible Companies Sectionを務めるフィリップ・グレゴール(Filip Gregor)氏は、一貫して情報開示の透明性の必要性を主張した。現在の情報開示の枠組みでは、生物多様性や汚染など環境分野を見ても、EUのプロセスとIFRS(国際会計基準)のプロセスどちらも企業の実態と情報開示のギャップを防ぐことができていない、と述べた。具体的にはマテリアリティ、インパクト双方を盛り込むことが必要であり、CSRDはスコープを広げ、より多くの企業が対応するようになることを期待するとした。

S&P GlobalでGovernment Affairs & Public Policy, Europe, the Middle East, and Africa部門のヘッドを務めるデイビッド・ヘンリー・ドイル(David Henry Doyle)氏は、ESGエコシステム構築のためには、企業のサステナビリティを測る情報開示の存在は必須とした。現在の情報開示システムに欠けている大切な要素として、Global comparability(国際的な比較性)を挙げ、まずは欧州圏内のベンチマークとなるだろうCSRDが、グローバルに広がりその役割を期待すると語った。懸念としては、SFDRとタクソノミーにもギャップが存在し、CSRDも含め足並みをそろえる必要性を挙げたが、最終的には、CSRDがグローバル・スタンダードになることに楽観的な見方をしている、と述べた。

欧州議会でStrategic Advisor on Corporate Responsibility and Sustainability, Business and Human Rightsを務めるリチャード・ハウイット(Richard Howitt)氏は、現在の情報開示システムにはインプリメンテーション(実装)を測ることが欠落していると語った。このままでは、どのように実行し効果を測定しているか見えない。具体的には、人権方針を掲げる企業は増えてきているものの、そのアウトカム(成果)を公表している企業は非常に少ないことを指摘し、CSRDはそのギャップを埋める存在になると期待していると語った。そして、たとえばダブルマテリティはグローバルに大きなインパクトを与えるなど、これまでも欧州発のスタンダードがグローバルスタンダードになってきており、CSRDがグローバルスタンダードになることにも、非常に楽観的だと締めくくった。

QUICK ロンドン支店長 兼 ESG研究所 後藤 弘子