ESG研究所スコープ2排出量、基準間で差 保証日は期末後3カ月以内も
2025年04月08日
東証プライム市場上場の時価総額3兆円以上の企業を2月28日時点で71社抽出し、このうち東証業種分類で製造業に属する40社の温室効果ガス(GHG)排出量を調べた。購入した電気などの使用に伴う間接排出(スコープ2)は、地域の平均的な電力排出係数で算出する「ロケーション基準」と、購入契約した電力の排出係数で算出する「マーケット基準」の差が目立った。
気候関連の主要指標であるGHG排出量は、算定・報告の国際基準「GHGプロトコル」で、スコープ2のほか、工場など自社拠点での燃料の燃焼や工業プロセスによる直接排出(スコープ1)と、事業活動に伴う原材料調達から製品の使用・廃棄といった供給網全体で発生する間接排出(スコープ3)に分類される。
スコープ2のマーケット基準は、購入して使用する電気をGHGが排出されない再生可能エネルギー由来にすれば、ゼロになる。同基準にはGHG排出削減の企業努力が反映されているわけだ。日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が3月5日に公表したサステナビリティ開示基準で、ロケーション基準だけでなくマーケット基準も取り入れたのは、こうした開示の有用性を考慮したからだ。
第三者による保証書や検証書を公開してスコープ2の両基準の排出量を公開した企業の中から13社を抜粋して表にまとめたところ、全社そろって排出量はマーケット基準がロケーション基準を下回る。両基準の数値で差が目立つのは中外製薬(4519)やブリヂストン(5108)などだ。
中外製薬の2023年12月期のマーケット基準の排出量は3458トンと、ロケーション基準の6万4663トンの19分の1程度だった。またブリヂストンはロケーション基準が198万7188トンだったのに対し、マーケット基準は49万5148トンに過ぎなかった。
中外製薬のウェブサイトでスコープ2の両基準の時系列データを遡ると、19年に「マーケット基準が6万5508トン、ロケーション基準は6万1226トン」だったが、21年に「マーケット基準が2万758トン、ロケーション基準は5万4177トン」に減った。ロケーション基準は22、23年と排出量が増えた一方、マーケット基準はこの間にさらに減らした。30年を最終年とする中期環境目標で二酸化炭素(CO2)を排出しない「サステナブル電力」の比率を25年までに100%にするという目標を設定し、導入してきた効果が出ているとみられる。
ブリヂストンを同社のウェブサイトで調べたところ、中期目標の「マイルストン2030」で、30年までに排出するスコープ1、2のCO2総量を11年比50%削減することを目標に設定。21~23年の中期事業計画では再生可能エネルギー(電力)導入を加速、24~26年の中期事業計画では再生可能エネルギーの安定調達を掲げ、50年のカーボンニュートラルを長期目標として取り組んでいる。
SSBJ基準の適用については、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」で議論されている。SSBJ基準による情報は、有価証券報告書に盛り込まれ、第三者による保証の適用も義務付けの方向とされる。
適用第一陣は今回調査した「東証プライム市場上場の時価総額3兆円以上の企業」が想定されている。初年度の27年3月期はサステナビリティ情報を有価証券報告書の提出後に開示する「二段階開示」を可能とするものの、次の年度からは「同時開示」で保証適用を義務化する案が示されている。
一方、加藤勝信金融相は3月28日、上場企業に対し、株主総会前に有価証券報告書を確認できるように配慮を要請した。本来、最も望ましい有価証券等報告書の提出は「株主総会の3週間以上前」という。現行の金融商品取引法に従えば、有価証券報告書の提出期限は事業年度終了後3カ月以内になっている。
GHG排出量という指標を算定し、第三者保証・検証を付けて有価証券報告書に記載して提出できるのか。13社の保証書・検証書の日付を調べたところ、事業年度末から3カ月以内の企業が6社と半分近くを占めた。東証プライム市場に上場するトップクラスの製造業ではGHG排出量の削減にいち早く取り組み、保証・検証付き開示の準備も整っている企業が少なくないようだ。
(QUICK ESG研究所 遠藤大義)