ESG研究所【ESGブック】日本株「七人の侍」と米「壮大な7銘柄」のサステナビリティ

【ESGブック】日本株「七人の侍」と米「壮大な7銘柄」のサステナビリティ

米大手投資銀行のゴールドマン・サックスが最近の日本の株式市場を牽引する主力企業7社を選んだことが話題になっている。米国株を代表する7社を「マグニフィセント・セブン(壮大な7銘柄、M7)」と称するのに倣い、日本の7企業を「セブン・サムライ(七人の侍、S7)」と称している。本寄稿では、S7とM7のサステナビリティのパフォーマンスを見ていきたい。

日米の7社はともに、それぞれ自国の株式市場を牽引する企業という点では共通しているが、米国のM7は、コロナ以前から注目されていたGAFAM、すなわちグーグル(アルファベット)、アップル、フェイスブック(メタ・プラットフォームズ)、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトに、AI(人工知能)向け半導体大手のエヌビディア、そして電気自動車のテスラという企業で構成されている。

一方の日本のS7は、半導体関連メーカーのSCREENホールディングス、アドバンテスト、ディスコ、東京エレクトロンと、自動車会社のトヨタ自動車とSUBARU、そして三菱商事だ。M7は、どちらかというとBtoC企業が多く、S7はBtoB企業が多いのは、現在の日米の産業がそれぞれ得意とする分野の違いを表しているようだ。

 

 

まず、個別の企業についてみていく前に、S7とM7のグループでの比較を行いたい。それぞれのグループの平均スコアを比較する。ディスクロージャー・スコアは、各企業の属する業種において重要とされているサステナビリティ指標について、企業はそれらの指標に対応する開示がされているかを示すスコアである。S7は92.6%、M7は92.4%とほぼ同じであった。スコアの範囲としては91%~95%と、S7とM7を構成する全14社は、マテリアルな指標に対する情報開示への対応は優れていると考えられる。

それでは、サステナビリティ全体のパフォーマンスを示すESGパフォーマンス・スコア・プラスの平均スコアを比較してみよう。スコアの点数はいずれも0~100の範囲でスコアが高いほど優れている。S7が61.19、M7が59.97で、S7が1ポイント程度上回っている。こちらもスコアの範囲をみてみると、S7は55.02〜68.49と高低差が13ポイント程度である一方、M7は48.87〜74.35と25以上の差がある。M7の方がサステナビリティのパフォーマンスにばらつきが生じていることがわかる。

次にSASB(サステナビリティ会計基準審議会)の5領域を基準にした5つのディメンション・スコアの比較をみてみたい。S7の平均スコアがM7の同スコアを上回っているディメンション・スコアは、「リーダーシップとガバナンス」、「社会資本」、そして「人的資本」であった。特に、社会資本は10ポイント以上上回っている。S7ではトヨタ自動車の社会資本スコアがS7の同スコアの平均値を15ポイント程度下回っており、同スコアに含まれる「製品の品質と安全性」や「販売慣行と製品のラベリング」のカテゴリー項目が低い評価となっている。

M7の平均スコアがS7の同スコアを上回っているディメンション・スコアは「ビジネスモデルとイノベーション」と「環境」であった。「ビジネスモデルとイノベーション」は7ポイント以上上回っている。M7、S7ともに「ビジネスモデルとイノベーション」のスコアの水準が低い企業はないが、群を抜いて高いスコアの企業がある。マイクロソフトだ。

マイクロソフトの同スコアは96.98と100点に近いスコアとなっており、スコア対象となっている世界の上場企業約9000社の中でも最上位のスコア水準である。同社は同スコアを構成する全カテゴリー項目の評価が高く、特に「ビジネスモデル回復力」と「材料の調達と効率」は満点(100)の評価となっている。同スコアの次点は85.15のアップルで、同社も「ビジネスモデル回復力」と「材料の調達と効率」は満点(100)であるので、企業が競争力を維持する上で、「ビジネスモデルの回復力」と「材料の調達と効率」の評価を高めることを意識することは重要なのではないか。

現在の日米の株式市場を牽引する14社のサステナビリティのパフォーマンスを示すESGパフォーマンス・スコア・プラスのスコアは、アマゾン・ドット・コム(48.87)を除くと50を上回っており、世界全体の中でもサステナビリティの取り組みに優れた企業のグループであることもわかった。

唯一50を下回ったアマゾン・ドット・コムも「ビジネスモデルとイノベーション」はS7平均より高く、「人的資本」はS7、M7の各平均スコアを上回っている。人的資本を構成する「労働慣行」、「従業員の健康と安全」、そして「従業員エンゲージメント、多様性とインクルージョン」のカテゴリー項目のスコアは非常に高い水準にあるので、今後自社のサステナビリティを向上する過程で、スコア水準の相対的に低かった「社会資本」、「リーダーシップとガバナンス」、そして「環境」への改善が期待される。

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)