海外の財務データを含めて分析・検証 実際の授業に役立つ柔軟なサポート体制
国際マネジメント
研究科
森田充准教授
国際マネジメント
研究科
森田充准教授
自社の海外売上高比率をご存知だろうか。
ジェトロ(日本貿易振興機構)がまとめた「ジェトロ世界貿易投資報告2017年版」によると、2016年度における日本企業の海外売上高比率は56.5%。2013年度から4年連続で5割を超え、高い水準が続いていると報告している。FactSet GeoRev+NEEDSセグメントデータによると、海外売上高を計上している企業は約1,400社。そのうち海外売上高比率が30%を超える企業は約6割、50%以上の企業も3割余りある。
業種や企業規模を問わず、海外で大きく稼ぐ日本企業は今や珍しくない。企業経営にとっては、グローバルなサプライチェーン・マネジメントや販路開拓、M&A、為替対応などの重要性がさらに高まっている。
一方、企業分析を主なテーマとする研究者・研究機関にも新しいアプローチが求められている。従来のような国内に軸足を置いた分析では、企業の正確な姿を理解することは難しいからだ。当然、分析に必要な財務データや開示資料には海外での企業活動を含む情報が欠かせなくなっている。
「多くの日本企業で業績予測をする時は、売り上げの立ち方や競合企業、サプライチェーンなどをグローバルベースで見ることになります。QFWは直近から過去の一定期間に限定した内容ですが、当該企業のサプライヤー、カスタマー、パートナー、競合他社との関係やリージョン(国・地域)ごとの各種データを参照し、ダウンロードできる点を評価しています」。
こう説明するのは、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科で主に企業分析を教えている森田充准教授だ。専門は計量経済学。統計データを使った計量分析によって、企業のディスクロージャー評価や業績予想、ESG(環境・社会・企業統治)の資本コストへの影響などを研究している。
QFWは、日本と海外の金融情報を統合した新しいコンセプトのサービスだ。最大の特徴は、米国FactSet Research Systems Inc.が持つ上場・未上場合わせて約120か国76,000社超の企業財務データを入手できること。企業予想や株主情報、M&A、人事情報、180万系列にも及ぶマクロ経済など伝統的なデータに加えて、地域別売上高、独自の業種分類、サプライチェーンなどのオルタナティブも合わせて、グローバルベースの膨大なデータにアクセスできる。
「QFWは現代の企業分析では必要不可欠なデータの持ち方をしていると思います。本研究科で実践している、座学だけでなく学生に手を動かしてもらう授業には欠かせないツールになっています」(森田准教授)。
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科がQFWを導入したのは2016年4月のこと。QUICK Workstation Astra Managerパッケージ(以下、Astra Manager)を補完するために使っていた他社のツールからQFWに切り替えた。その際に森田准教授が評価したのは豊富な海外データはもちろん、2016年8月1日から組織化されたQUICKとFactSet社の共同販売チーム、JOINT SALES TEAM(以下、JST)によるサポート体制だという。
「業績予想のために関数を使ったシートを作ろうとしたのですが、Astra Managerでは難しい。そこでJSTの担当者に相談したところ、我々と一緒にそのシートを作成してくれました。とても助かりましたね」と森田准教授。
具体的には、過去10年分の財務データを入手して予想しやすい形に組み替えた財務3表を関数で作っている。それに企業分析をもとに売上高伸び率、利益率などの業績予想の前提を設定して業績を予想。営業キャッシュフローと投資キャッシュフローからフリーキャッシュフローを算出し、DCFモデルで妥当株価も割り出した。
JST担当者は「1か月ほどかかったでしょうか。ご利用いただいているユーザーさまの要望にお応えできるよう、協力する体制があります」と説明する。
データ作成などのサポートをはじめとする各種データの標準化やカスタマイズなど、森田准教授は「柔軟な対応がとてもありがたい」と評価する。さらに、JST担当者は「FactSet情報と金融関係の知見を持つ担当者が対応するサポートデスクも大きな強みの一つとなっています」という。
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科はABS(Aoyama Business School)として渋谷キャンパスに設置されている。MBA(経営学修士)と博士課程の大きく2つのプログラムが用意されており、MBAにはフレックス・タイム、主に平日夜間と週末に履修するコースがある。フレックス・タイムでの入学には3年以上の職業実務経験が必要と規定されている。
森田准教授はABSで200人超の学生に教えているが、そのうち半分以上は夜間のフレックス・タイムの学生。つまり、半数以上は現役のビジネスパーソンだ。実はこれが、森田准教授にとっても勉強になっている。
「フレックス・タイムは一般の事業会社に勤務している学生が多いのですが、渋谷という場所柄からか、先進的なIT企業の財務担当者やIR担当者が珍しくありません。彼らは、自社が機関投資家からどう見られ、どう理解されているかという意識が強い。私はずっとアカデミズムの世界にいましたので、事業会社の現場からの視点はとても新鮮です」。
森田准教授の授業では、QFWとAstra Managerを併用することがある。例えば「ビジネス・アナリシス」の授業では、アナリストレポートの作成と日本株のアクティブ運用を疑似体験する。そこでの企業分析に、QFWとAstra Managerのデータが活用される。
「学生たちにやって欲しいのは、分析したいことを自分で設定して仮説を立て、データを使って検証することです。データにアクセスできないと、仮説を立てても分析する材料がないことになります」(森田准教授)。
MBAプログラムで大事なのは、経営理論とビジネスの実践を結びつけること。その一環として、「ビジネス・アナリシス」で株式運用を体験学習する。
森田准教授によると、企業分析におけるデータで大事なことは期間などのボリュームだけでなく「さまざまな視点のデータが揃っていること」だという。
「自分が学生当時よりもデータアクセスが簡単になり、分析ツールも使いやすくなっています。実際に自分で分析することに興味をもつ学生が増えたことは嬉しいのですが、仮説と検証に新規性を出すことが難しくなっています」。
森田准教授はQFWを活用し、その一助になる授業を目指している。いくら高度な知識や進んだIT環境を持っていても、データがなければ森田准教授の授業は成立しないし、MBAプログラムにおける価値ある学びにはならない。その意味でも、QFWとAstra Managerが果たす役割はとても大きいと言えそうだ。